ナスの栽培

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Ⅰ.ナスの概要

1.ナスの導入

(1) 栽培面での特徴
・ナスは、長期にわたって未熟果を連続的に収穫していく代表的な作物で、栄養生長と生殖生長のバランスをとって栽培することが重要である。
・ナスは果菜類の中では生育スピードが遅く、草勢の低下がゆっくりしているが、逆に草勢の回復に時間がかかることから、草勢判断と対応がポイントである。
・栽培面でのポイントは、乾燥に弱いので適切にかん水を行うことと、整枝や摘葉・摘果、追肥により常に樹勢を維持することである。
(2) 経営面での特徴
・全国的に栽培面積、生産量とも減少傾向にある野菜である。

2.来歴

・ナスの原産地はインド東部といわれ、この地方には野生種も存在している。
・紀元前5世紀には中国に伝えられ、5世紀ごろにはすでに中国、アラビヤ、アフリカなどで栽培されていたようで、農業とその加工調理に関する世界最古の古典とされる斉民要術(405~556年)には、ナスの作り方(栽培法)や種の取り方(採種)などが詳しく記載されている。
・ヨーロッパでは13世紀に入ってようやく作られるようになったが、観賞用のもので、長い間、ナスを食べる食習慣はなかったようである。
・その後、16~17世紀にはヨーロッパ各地で栽培され、食用になったが、主要野菜とはならなかった。
・日本にいつ渡来したのかは不明であるが、正倉院文書には天平六年(734年)に「茄子」についての記載があり、平城京の遺構から発掘された木簡(736年~)にも複数の記録が残っていることから、少なくとも奈良時代には栽培が行われていたようである。
・延喜式(928年)には、宮廷の内膳司の畑でナスやキュウリ、マクワウリ、ネギが作られており、栽培法ばかりでなく、漬物の作り方など加工についても詳しく述べており、この頃までにナスやキュウリは広く普及し、既に日本の重要な野菜になっていたことがうかがえる。
・室町時代に入ると、京都周辺の山城や大和でナスが特産品として作られるなど、さまざまな果形の地方色ゆたかな品種が発達した。
・江戸時代初期には静岡県の三保あたりで促成栽培が始まり、初なりの茄子は賄賂に使われるぐらい高価で、人気のあった野菜であった。
・江戸時代も後期になると、野菜の中ではもっとも需要が多かったと言われている。
・こうして日本全国に広まり、今では北海道でも普通に栽培されるようになった。

3.分類と形態的特性

(1) 分類
・ナス科ナス属の一年草である。
(2) 根
・ナスは根が深く伸び、深部の水を利用できるため一見乾燥に強いように見えるが、実は乾燥には弱い植物である。
・根は深く広く伸びるが細根が多く、一か所に多く施肥すると濃度障害で根が傷む。
・ナスの根系は土中深くまで入り込むので、十分な根群域を確保しなければならない。

4.生育上の外的条件

(1) 温度
・生育適温は22~30℃で、17℃以下では生育が緩慢となる。
・低温には非常に弱く、マイナス1℃で凍死する。
・種子の発芽の適温は25~35℃だが、変温管理した方が発芽がそろう。
・花粉の発芽適温は20~30℃で、開花前7~15日に15℃以下の低温や30℃以上の高温にあうと、不稔花粉が生じて落花しやすくなる。
(2) 水分
・乾燥には弱く、適度な土壌水分を好む(pF2.0~2.3)。
・土壌が乾燥すると雌しべの発達が悪くなり、雄しべより短い短花柱花が多くなる。
(3) 光
・ナスの光飽和点は4万ルクス程度である。
・光が不足すると、落花が多くなる。
・紫外線で果色(アントシアニン)が発生する。
(4) 土壌
・土壌の適応性は広いが、十分な根群域を確保できる深い作土層が必要で、有機質に富んだ肥沃な土壌が望ましい。

5.品種
・北海道で作られているナスの主な品種は次のとおりである。
(1) 千両2号(タキイ)
・1964年に一般に栽培されるようになって以来、50年継続して栽培されている長卵形品種で、トンネル、夏秋どり用を中心に広範囲な作型で定評がある。
・節間はやや長く、草勢旺盛でスタミナがあり、果実の肥大が早く、長期栽培でも生産が安定して多収である。
・果色は濃黒紫色でツヤがよく、果ぞろいがよく、果皮はやわらかくて品質がよい。
(2) くろべえ(渡辺採種)
・草勢が強く、草姿は立性で着果数が多く、早期及び長期にわたり多収である。
・果色は濃い黒紫色で光沢、日持ちが極めて良い。
・やや皮が固めで漬物用には向かないが、肉質は柔らかく、煮ナス、焼きナスには相性が良い。
・根張りが良く、夏ボケや石ナスも少ないので栽培が容易である。
(3) くろわし(タキイ)
・晩生種が多い米ナスの中でも、比較的早生で着果数は多く、秀品率が高い多収型の品種である。
・草姿は中開性で枝は太く、草勢と初期の吸肥力は普通ナスより旺盛である。
・果形は短卵大型でヘタは鮮やかな緑色、果色は濃黒紫色で、収穫期を過ぎても色あせしない。
・収穫後の日もちがよく、 盛夏時でも色ボケしにくい。

6.作型

・北海道での主な作型は次のとおりである。
(1) 半促成
・1月中旬は種、4月下旬~5月上旬定植、6月中旬~10月中旬収穫
(2) トンネル早熟
・2月下旬~3月上旬は種、5月中旬~5月下旬定植、6月下旬~10月上旬収穫
(3) 露地
・3月上旬~3月中旬は種、5月下旬~6月上旬定植、7月中旬~10月上旬収穫

Ⅱ.ナスの栽培技術

1.育苗

(1) 種まき
・接ぎ木を前提にする場合、定植から逆算して90日前に播種する。
・種子は、128穴のセルトレイに1穴1粒ずつまく。
(2) 発芽
・種子の発芽の適温は25~35℃だが、地温を夜間20℃、日中28℃に変温管理すると発芽がよくそろう。
(3) 移植(鉢上げ)
・本葉2.5葉になったころ、12~15cmポットに移植する。
・移植前日までに適量の水を土になじませ、地温20℃、気温18℃に設定する。
・水をやりすぎると葉が大きくなり、しおれやすくなるので注意が必要である。
(4) 定植までの管理
・発芽後は、日中は28~30℃、夜間は20℃以上を目安に管理する。
・活着後は1日に必要な量のみかん水するが、ひどくしおれると落葉するので、無理な節水は行わない。
・移植の2週間後には株間を広げ、葉の重なりによる徒長を防ぐ。
・徐々に夜温を下げていき、定植前には10℃にする。
・蕾が膨らみ、紫に色づいてきたら定植適期である。
(5) 接ぎ木(割り接ぎ)する場合
1) 台木の選定
・半身萎凋病を重視する場合は「耐病VF」「ミート」「トシナム」「トルバム・ビガー」を、その他の病害対策を重視する場合は青枯病やネコブ線虫にも抵抗性のある「トシナム」か「トルバム・ビガー」を、低温性を重視する場合は低温期にも安定して側枝が発生し、寒冷地で高い能力を発揮する「耐病VF」等を選ぶ。
2) 台木の播種
・台木に「トシナム」か「トルバム・ビガー」を選んだ場合、初期生育が遅いので穂木より14日程度早く播種する。
・台木に「耐病VF」を選んだ場合は、穂木と同じか3日程度早く播種する。
3) 播種~鉢上げまでの管理方法
・種子は育苗箱に6cm×2cmくらいに条まきする。
・芽出しは日中30℃、夜間20℃くらいにして表面を濡らした新聞紙等で覆い、発芽を揃える。
・発芽後は日中20~25℃、夜間18℃くらいで管理する。
・本葉が1.5~2葉になったとき、穂木は育苗箱に9cm×6~9cmの間隔で移植、台木は12~15cmポットに鉢上げする。
4) 接ぎ木前の管理
・接ぎ木7日前~2日前は、午前中にかん水し、午後下葉が萎れる程度に管理する。
・接ぎ木前日は、接木直後にかん水できないため、接木前日にたっぷりとかん水する。
5) 接ぎ木
・台木は本葉5~6葉期、穂木は本葉4~5葉期が適期である。
・台木の準備は、本葉2~3枚目で茎が最も太く充実した葉の上の部分で横に切り、最も充実した葉を1枚のみ残して、他の葉や脇芽は切除する。
・穂木の準備は、本葉3枚残して茎を切り、茎の先をくさび形に切る。
・台木の中央部を1.5cm程度切り下げ、くさび形に切った穂木を差し込み、接ぎ木クリップで止める。
6) 接ぎ木後の養生
・接ぎ木後3日目までは、むしろなどで強遮光し、かん水しないで霧吹きだけで萎れを防ぐ。
・4日目~10日目頃までは、朝夕短時間の採光から徐々に光に慣らし、少量のかん水と萎れに応じた霧吹きで活着を促す。

2.畑の準備

(1) 適土壌と基盤の整備
・土壌の適応性は広く、砂土~壌土で生育が良い。
(2) pHの矯正と土壌改良
・土壌のpHは6.0~6.5になるように矯正を行う。
(3) 堆肥の施用
・ナスは有機質に富んだ肥沃な土壌を好むことから、定植ほ場には前作終了後に良質の堆肥を10a当たり2t程度施用し、深耕しておく。

3.施肥

(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・佐賀県の試験データによると、施肥成分の利用率は10月から6月の期間で窒素が21%、リン酸が4%、カリが68%で残りは土壌からの吸収であった。
2) 窒素
・夏秋ナスの窒素吸収量は、定植後1ヵ月までは緩やかであるが、その後は直線的に定植90日後はさらに急増し、定植120日後は再び緩やかになるシグモイド型の吸収パターンを示す。
・開花、結実の盛んな時期に窒素、カリの吸収が著しく、不足すると花器の発達が悪く短花柱花が増加する。
3) その他の要素
・ナスは苦土や石灰の欠乏が出やすい作物である。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・ナスは生育期間が長く、施肥量が比較的多い野菜である。
・基肥は肥効の長持ちする緩効性肥料を使用し、追肥は回数を多くし、後半肥切れさせないようにする。
・夏秋ナスの露地栽培には、シグモイド型肥料の全層施肥と速効性及びリニア型肥料の作条施肥を組み合わせた全量基肥施肥方法が施肥量の削減と省力化に有効である。
・生育初期に肥料が効きすぎると徒長、過繁茂、花芽の落下等を招き、初期収量の低下につながる。
2) 施肥設計(例)

 区分 肥料名 施用量
(kg/10a)
窒素 リン酸 カリ 苦土  備考
基肥 S708E 200 14.0 20.0 16.0 6.0 ・追肥分をあらかじめロング肥料で施用しておく
・追肥が必要な場合はNK化成等で補う
エコロング413(70日) 25 3.5 2.8 3.3
エコロング413(100日) 25 3.5 2.8 3.3
合計 250 21.0 25.5 22.5 6.0

 

4.定植準備

(1) 畝立て、マルチ
・定植の1週間前に幅110cm、高さ20 cmほどのベッドを作成し、マルチングして地温を上げておく。
・マルチ下にはかん水チューブを入れておく。
・定植後の植穴かん水は地温を低下させるので、定植前に十分かん水して地温を上げておく。
(2) 栽植密度
・仕立て本数にもよるが、畝幅200~230cm、株間60~75cm(10a当たり600~850株)で定植する。
・長期どりの場合は、密植は厳禁である。

5.定植

(1) 苗の状態
・定植は1番花開花直前の苗が適期である。
・栄養生長と生殖生長のバランスが最もとりやすく、本圃への活着と同時に開花すれば、茎・葉・根の栄養生長系と、花・果実の生殖生長系に光合成養分がバランスよく配分される。
(2) 定植の方法
・苗は定植前に十分液肥をかん水し、やや浅植えにする。
・定植後は株元にかん水を行い、活着を促す。

6.管理作業

(1) 温度管理
・ハウス内の温度は昼間25~28℃を目安に換気し、夜間17~20℃に保つと生育が最も良好となる。
(2) かん水管理
・深層まで根を張らせるため、最初の果実を収穫するまでは、しおれが見えてから株元にたっぷりかん水する。
・収穫開始後は、ナスは葉が大きいため蒸散量が多く、多量の水分が必要で、水分が不足すると草勢の低下や肥大不良、つやなし果等の原因になるので、こまめに十分なかん水を行い適湿を保つ。
(3) 仕立てと整枝
・最初の整枝は、1番花直下の側枝2本を残して、それより下のわき芽を取り除く。
・基本的な側枝の剪定の仕方は、1次側枝の1花目の先端に葉を1枚残して摘芯し、収穫の際、主枝に近い2次側枝を1芽残して切り戻す。残した2次側枝が伸びたら、同じように摘芯、収穫、切り戻しを繰り返す。
・簡易な方法としては、側枝をある程度放任とし、細めの側枝を間引くように随時整枝する。
・簡便法の場合、過繁茂による成り疲れに注意する必要がある。
(4) 摘葉
・株元の葉が傷んできたら、1番果から下の本葉を取り除き、通気性をよくして病害虫の発生を抑える。
・懐の込みあった葉や黄化した葉は適宜取り除き、採光と通風を図る。
・一度に多くの葉を摘除すると草勢低下につながるので、1回1株当たり2~3枚までとする。
(5) 誘引
・誘引はV字誘引を基本とし、支柱を250~300cmおきに立て、60~70cmの高さから上に20~30cm間隔でビニールひもかマイカ線、フラワーネットを張って枝が垂れないようにする。
(6) 敷きわら
・乾燥と地温上昇を防止するため、夏が来る前にあらかじめ敷きわらをしておく。
(7) 草勢判断
・成り疲れと乾燥で、 草勢が低下しやすい。
・草勢が強くなると、落花したり、実がつかなくなる。
・着果負担を減らしつつ草勢を維持するには、やや小さめのサイズで収穫するとともに、分枝果や障害果は見つけ次第摘果する。
(8) 追肥
・1番果収穫のころから追肥を行い、以後は草勢を見ながら施用する。
・夏期に高温が続きナスの生育が旺盛な年には、9月以降に肥料が不足する可能性がある。
・このような気象年で11月上旬まで収穫する場合では、8月中旬頃に溶出日数の短い被覆複合肥料の追肥(40日タイプ10kg程度)が必要となる。
(9) 防風網の設置
・ナスは風によって果皮に傷が付きやすい。
・秀品率向上のために、あらかじめ防風ネットを設置しておく。
・風害による枝折れを防ぐため、台風が接近したら小さめの果実で収穫し、枝を誘引支柱やマイカ線等に固定する。
・台風通過後は、殺菌剤と薄い葉面散布剤を散布する。
(10) ホルモン処理
・定植後しばらくは草勢のバランスがとりにくく、着果が不安定になりやすいので、3番花まではホルモン処理(トマトトーン50 倍)を行い、確実に着果させる。

7.主な病害虫と生理障害

(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、青枯病、疫病、褐色腐敗病、褐斑病、褐紋病、菌核病、灰色かび病、半枯病、半身萎凋病、輪紋病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、アブラムシ類、オオタバコガ、カメムシ類、キタネコブセンチュウ、ダニ類、ナスハモグリバエなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、石ナス、ガク割れ果、苦土欠乏症、つやなし果、ぶくなす果などである。

8.収穫

(1) 収穫適期
・開花から20日前後の未熟果を収穫する。
・実が熟すと中のタネが硬くなり、肉質も劣るようになる。
(2) 収穫方法
・収穫はなるべく早朝の涼しいうちに行い、収穫後も品温を低く保って品質低下を防ぐ。
・収穫・調製作業は軍手を使用し、二段鋏み等を使用して果実に傷つけないように気を付ける。