ネギの栽培

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Ⅰ.ネギの概要

1.ネギの導入

(1) 栽培面での特徴
・タネまきから収穫まで約10カ月前後かかる、非常に日数を要する作物である。
・栽培面でのポイントは、良質な苗を育苗すること、肥料吸収特性に合わせた施肥管理を行うことである。
(2) 経営面での特徴
・1人1日の選別可能量は60kg程度なので、1作の収穫期間を15日とすると、1人当たり2~2.5aが限界である。
・ネギは価格変動幅が比較的少ない野菜なので、産地間競争が激しい品目である。

2.来歴

・ネギの原産地は、中国の西部または西シベリア南部のアルタイ地方といわれている。
・元来、温帯の野菜だが耐寒性・耐暑性ともに強く、極寒のシベリアから華南など亜熱帯地方まで分布している。
・ネギは紀元前から中国で栽培が始まり、6世紀頃の書物には栽培法が記されている。
・中国では華北・東北地方を中心に、軟白した白根を主として利用する太ネギ群が、華中・華南・南洋地方には、葉を主として食べる葉ネギ群が発達した。
・また、華北・華中を中心に、万能型の兼用種が古くから栽培されていた。
・ヨ-ロッパに渡ったのはかなり遅く、16世紀の文献に初めて登場し、アメリカへは19世紀に入ったと考えられている。
・ただし、ヨーロッパでは西洋ねぎの「リーキ」が好まれたため、ネギは普及しなかった。
・日本へは、かなり古い時代(5世紀頃?)に伝わっていたと考えられ、「日本書紀」(720年)に「秋葱(あきぎ)」という名前が出てきている。
・中国の華北・東北地方を中心とした太ネギ群は、朝鮮半島を通って日本に伝わり、加賀群と呼ばれる品種群が成立し、華中・華南・南洋地方で発達した葉ネギ群は、琉球を通って日本に伝わり、九条群の品種に至ったとされ、耕土の比較的浅い関西地方を中心に西日本で葉ネギが、耕土の深い関東地方を中心に東日本で根深ネギが、主に定着した。
・平安時代の日本最古の本草学書である「本草和名(918年)」や「延喜式(927年)」には、ネギの説明と栽培法が記されており、江戸時代には一本ネギとして使われる千住群品種が成立し、明治から大正時代にかけて黒柄、合柄、赤柄などの分系が生じた。
・今日では、根深ネギとして用いられる千住群品種と、葉ネギとして用いられる九条群品種が主要品種であるといえる。

3.分類と形態的特性

(1) 分類
・ユリ科(ヒガンバナ科)ネギ属の多年草である。
(2) 根
・ネギの根は酸素要求度が大きく、地表近くに分布するため排水不良・過湿には極めて弱い。
・肥料濃度に対して敏感で、肥あたりしやすい。
(3) 葉
・葉は5~8日ごとに出葉し、寿命は20~30日である。
・培土をすることにより、外葉の古い葉は枯れて更新される。
(4) 花芽分化と抽苔
・移植後葉鞘径5~10mm、分化葉数11~12枚以上の苗が5~10℃の低温に連続遭遇し、その後の高温で抽苔が促進される。
(5) 分げつ
・分げつしにくい品種でも、 過乾・過湿などのストレスがかかると、分げつが促進される。
・さらに、株と株の間が広かったり、肥料が多かったりしても同様に分げつが促進される。
・いずれの場合も分げつするとかたくなり、品質が低下する。

4.生育上の外的条件

(1) 温度
・発芽適温は15~23℃で、生育適温の幅はかなり広いが20~25℃の範囲で良く生育する。
・軟白の最適温度は15℃で比較的涼しい季節が良く、5℃以下では緑色が葉鞘部に残り、25℃以上では高温のため葉身部の先端が枯死する。
(2) 水分
・一般作物に比べて、乾燥には強い。
(3) 土壌
・ネギは耐湿性が弱く、保水性の適度な軽い土壌を好む。
・ただし、通気性さえ良ければ多少重い土壌でも栽培できる。

5.品種

・北海道で作られているネギの主な品種は次のとおりである。
(1) 北の匠(タキイ)
・作期幅が広く、道内の夏~秋どりに適している合柄系一本葱。
・生育が極めて旺盛で、伸びと太りにすぐれる。
・草姿は立性で、草丈95cm、葉鞘部は38~45cm程度。
・耐湿性や耐病性にすぐれ、作りやすい。
・そろいがすぐれる上に皮むき作業が容易で、出荷調製時間が短縮できる。
・肉質は緻密で繊維が細くやわらかい。
・糖度が高く、苦みや辛みが少ない。
・軟白部の白さ、テリ・ツヤにも優れている。
・吸肥力が比較的強い。
・葉色がやや薄いが、色を濃くする目的で追肥量を増やすことは避ける。
(2) 元蔵(武蔵野)
・合黒系の純一本太ネギで、埼玉の篤農家鈴木元吉氏が冬ネギとして耐寒性強く、色沢、収量が低下しないことを目標に育成した品種である。
・低温伸長性に優れるので、冬どり栽培に適する。
・耐寒性は強く、軟白部および衿の締りも非常に良い。
・葉は立性、太目で強く、機械化作業が容易である。
・耐病性があり、特に赤さび病に強い。
・葉鞘部の肥大性が良く太くなりすぎることがあるので、やや密植にした方が秀品率が上がり収量が上がる。
(3) 白羽一本太(トーホク)
・高冷地の春まき夏穫りに適した、伸張性に優れた一本葱。
・揃いが良く、耐病性、収量性が高い。
・草姿は立性、葉色は濃緑の黒柄で、葉折れしにくく、草丈はやや高めである。
・耐病性が強く、赤さび病やべと病の発生が少ない。
(4) 松本一本太葱
・生育旺盛で栽培容易、厳寒になると青葉は枯れるが、地下部は越冬するので、寒地で秋蒔きして春植する栽培に適している。
・極めて耐寒性の強い太葱で、軟白部は50cm位にも達し、揃いも良く、外観も優れている。
・肉質は柔軟で甘味がある。

6.作型

・北海道での主な作型は次のとおりである。
(1) 早春まきハウス
・12月上旬~1月中旬は種、3月中旬~4月下旬定植、6月中旬~7月下旬収穫
(2) 春まき
・1月上旬~4月下旬は種、4月中旬~7月上旬定植、7月下旬~11月上旬収穫
(3) 春まき(越年どり)
・4月下旬~5月下旬は種、6月下旬~7月下旬定植、4月上旬~6月上旬収穫

Ⅱ.ネギの栽培技術

1.育苗(地床育苗)

(1) 育苗床の選定
・定植畑10a当たり苗床は1~1.5a(100~150㎡)程度の床面積を準備する。
・育苗床は日あたりがよく、排水のよい場所とする。
(2) 育苗床の準備
・あらかじめpHを6.0~6.5くらいに調整し、堆肥を1a当たり200kg程度施用しておく。
・苗床の有効態リン酸は50mg/100g以上を目標とする。
・は種20日くらい前に施肥をし、耕うんして肥料と土をよく混ぜ合わせておく。
・施肥量は1a(100㎡)当たり窒素1.8kg、リン酸2.5kg、カリ1.8kgを標準とする。
・リン酸はネギの苗質の良否に影響を与えるので多めに施す。
・ただし、濃度障害を避けるため、必ず土壌診断(ECの測定)を行い施肥量を決定する。
・は種7日くらい前に幅1~1.2m、高さ5~10cm程度の揚げ床とする。
(3) 害虫の防除
・ネダニ防除として、土壌施用粒剤を施用し土と混ぜる。
・堆肥や鶏ふんを入れる場合は、タネバエ対策も行う。
(4) 種まき
1) は種の準備と種子量
・必要な種子量は、定植畑1a当たり50~60mlである。
・ねぎの種子は寿命が短いので、毎年充実した新種子を準備する。
・充実した種子は1mlで0.4g以上ある。
・種子を一晩水に浸しておけば発芽が早く、発芽時期もそろう。
2) は種の方法
・うねを平らにならして8~10cm間隔のまきみぞをつけ、重ならないように種子を条まきする。
・薄く覆土して、十分かん水する。
・かん水後、乾燥を防ぐために不織布のべたがけ、またはポリフィルムでマルチをする。
・これらのかわりに敷きわらをするか、もみがらを敷いても効果がある。
・地温は特に発芽揃いを良くするために、15~20℃に保つと10日前後で発芽する。
・発芽が始まったら、すぐに不織布や敷きわらを取り除く。
(5) 定植までの管理
1) 温度管理
・発芽後は日中の気温が15~20℃となるように、トンネルの開閉などで温度管理を行い、外気温が20℃前後になったらトンネルを取り除く。
・25℃以上になると軟弱徒長になるので換気に努める。
・夜間は5℃以上を保つようにする。
2) 水分管理
・発芽後は立枯病に注意しながら、本葉1.0~1.5枚目までは適湿を保つよう心掛ける。
・育苗前半の過乾は苗の伸長を著しく抑制するので、十分水を与えてのびのび生育させる。
・その後は、夕方にはやや乾く程度の水管理を行い、かたい苗をつくるように心がける。
3) 間引き
・間引く苗は生育の遅れたもの、異常に大きすぎるもの、子葉の不ぞろいなもの、病害虫におかされたものなどで、草丈が10cmのころ最終の間引きをおこない、3cm前後の株間にする。
4) 追肥・中耕
・草丈が10~15cmになったらかん水をかねて、液肥(500~800倍)で7~10日間隔で追肥する。
・または、速効性肥料で1a(100㎡)当たり成分量で窒素300g、カリ200~500g程度を条間に追肥して、除草もかねて中耕する。
・手間があれば、間引きごとに少量ずつ追肥してもよい。
5) 剪葉
・葉先が垂れるようになったら、15~20㎝程度の草丈に剪葉する。
・3 回程度繰り返すことで、太くてしっかりとした苗作りが可能となる。
・最終の剪葉は定植直前ではなく、定植5~7日前に行う。
6) 定植時の苗姿
・地床育苗による定植時の苗の大きさは、65~70日苗では長さ25~30cm、本葉3~4枚、1本重15~20gでエンピツ大の太さの苗である。
・セルでの育苗では葉鞘径が2.2~3.0mm、草丈25cm、葉数2.2枚程度となったら定植可能である。

2.畑の準備

(1) 適土壌と基盤の整備
・定植予定ほ場は融雪剤を散布し、融雪を促進する。
(2) pHの矯正と土壌改良
・適pHは6.0~6.5である。
・リン酸は、定植畑では30mg/100g以上を目標とする。
・ECの上限は、0.8~1.5である。
(3) 堆肥の施用
・前年秋に10a当たり堆肥3tを施用し、土壌と混和しておく。
(4) 輪作
・ナガネギはリン酸含量の多い土壌で良く生育するので、タマネギやニンニク後地ほ場が望ましい。

3.施肥

(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・ネギは、肥料養分のうち窒素、カリ、石灰の吸収が大きい。
・肥料吸収は定植後1~2ヶ月は緩やかであるが、3~4ヶ月になると急激に増加するので3~4回分施する。
2) 窒素
・春まき栽培では、定植からおよそ50日間の窒素吸収量はきわめて少ないが、それ以降は直線的に増大する。
3) リン酸
・リン酸の吸収量は窒素、カリに比べ少ないが、欠乏した場合は著しく生育に影響を及ぼす。
・リン酸は、特に苗床での肥効が高く、苗床の有効態リン酸は50mg/100g以上、定植畑では30mg/100g以上を目標とする。
4) その他の要素
・マンガン、ホウ素の影響が大きい。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・肥効調節型肥料を用いると、植え溝に施肥しても肥料焼けが起こらず施肥窒素の利用効率が高まるため減肥が可能となる。
・肥効調節型肥料にはリニアタイプやシグモイドタイプなどがあるが、条件により必ずしも表示日どおり溶出されるわけではないので、栽培期間が長期にわたる作物の場合、タイプや表示日の違うものを作物の養分吸収パターンに合わせて組み合わせて利用すると効果がより発揮される。
・ネギは、在圃期間の長い作物で、生育途中の肥切れや過剰な肥効は順調な生育の妨げとなることから、穏やかな肥効の持続が重要である。
・肥効の波を作らない施肥としては、有機質系肥料や肥効調節型のロング肥料を使った元肥主体の施肥や、元肥に全チッソ量の1/3~1/2を使い、残りを数回に分けて追肥を行う施肥体系とする
・最終的なチッソ成分の目安は、10a当たり20~25㎏程度である。
2) 施肥設計(例)

 区分 肥料名 施用量
(kg/10a)
窒素 リン酸 カリ 苦土  備考
基肥 S009E 90 9.0 18.0 8.1 2.7 ・追肥分をあらかじめロング肥料で施用しておく
エコロング413(70日) 40 5.6 4.4 5.2
エコロング413(100日) 40 5.6 4.4 5.2
合計 170 20.2 26.8 18.5 2.7

 

4.定植準備

(1) 定植畑の準備
・植え溝は、12~15cm程度のやや深溝を作る。
・定植時期に長雨が続くと土が締まり、初期生育が遅れることがあるので、植え溝は1~2日分ずつ作るようにする。
(2) 栽植密度
・畝幅90cm×株間5~6cm、2本植え(37,000~44,000株/10a)
・早出しの場合は株間を広めに、作土の浅い場合は畝幅を広めにする。

5.定植

(1) 苗の準備
・苗は当日定植分だけ堀上げ、大苗・中苗の2段階程度に選別しておく。
・苗の消毒(タネバエ、萎ちょう病防除)は必ず行なう。
(2) 定植の方法
・植え付けの深さは5~6cm程度とする。
・南北畝の場合は西側に、東西畝
の場合は北側に、根元を曲げず葉が重ならないようにできるだけ垂直に定植する。

6.管理作業

(1) 温度管理
・定植後1ヶ月間、低温期にトンネルや不織布などの被覆資材を利用すると初期生育が促進され、早期出荷も可能となる。
・ネギは暑さに弱く、30℃を越えると生育が著しく抑制されるので、20~25℃に保つようにハウスおよびトンネル栽培では随時、換気を行う。
(2) かん水管理
・ネギは、かん水効果が極めて高い作物である。
・ハウスおよびトンネル栽培では、かん水チューブを2畦に1本の割合で設置する。
・生育初期に乾燥が続く場合、かん水の効果が高い。
・培土後、高温晴天時に葉先が枯れるのは断根による干ばつ害なので、培土後のかん水は特に高い効果がある。
・かん水時期は、概ね8月末までとする。
(3) 培土(土による軟白)
・晴天が続き土が乾き過ぎて培土しても崩れるような時は、先にかん水をして土を湿らせてから培土すると良い。
・培土は、定植後1ヶ月毎に3回程度に分けて行なう。
・培土の量は、1回目は植溝を埋め戻す程度、2回目は葉の分岐点の下まで土を盛り、3回目は分岐点まで十分培土する(仕上げ培土)。
・一度に多量の土寄せを行うと、葉を傷めたり、断根による病気発生のリスクが高まるので、手間があれば少量ずつこまめに行うと良い。
・培土のタイミングは早めに行うよりもむしろ遅めにした方が良く、葉鞘部が太くなったものを培土で上へ上へ押し上げてやるように行う。
(4) 簡易軟白法
・収穫予定日から30~40日前頃、葉の分岐点の上10cmの位置まで50cm幅の遮光フィルムで被覆し、収穫予定15日前にフィルム襟部を発泡スチールで挟む。
・軟白開始後は茎がほとんど太らないので、茎径を確認してから軟白を開始する。
・襟首は、スポンジ付きの発泡スチロールや洗濯挟みなどで遮光フィルムの上部を挟み、軟白部に光が入らないようにする。
(5) 追肥
・追肥は培土直前に畦間に施用し、その土を混ぜて培土する。
・追肥の量は3回行う場合、1回当たり窒素成分で4~5kg/10aを目安とする。

7.主な病害虫と生理障害

(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、萎凋病、黒斑病、さび病、小菌核病、小菌核腐敗病、軟腐病、根腐萎凋病、葉枯病、べと病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、タネバエ、タマネギバエ、ネギアザミウマ、ネギアブラムシ、ネギコガ、ネギハモグリバエなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、葉先黄化症、葉先枯れ症などである。

8.収穫

(1) 収穫適期
・収穫時期は、軟白部の仕上がりと太さを確認して決定する。
・目安としては、夏~初秋作型で最終培土から20日目頃、初秋~秋作型25日目頃である。
・簡易軟白の場合は、これよりも10日程度長くかかる。
(2) 収穫方法
・収穫の方法は、機械で根を浮かして手で引き抜くのが一般的である。
・引き抜いた時点で葉の長さを調整すると、その後の作業が楽になる。