ファレノプシス灰色かび病

農薬に関する記述については執筆当時のものであり、農薬を使用する場合は、必ずラベルの記載事項を確認し、適正に使用すること。

1.概要

2.被害のようす

(1) 発生動向
・各地で発生している。
(2) 病徴と被害
1) 病徴
・はじめ開花直前のつぼみあるいは開花後花弁の一部に水浸状の小斑点を生じる。小斑点は次第に拡大し、径1~3mmの褐色円形病斑となる。病斑は多くの場合褐色だが、紅色系の花では退色斑点となることがある。
・湿度が高い場合には病斑上に灰色のかびを生じる。
2) 被害
・多発すると、花弁に多数の褐色小斑点が生じ,著しく観賞価値をそこなう。

3.病原菌の生態と発生しやすい条件

(1) 病原菌の生態
・病原菌は多犯性で、各種の野菜や花に寄生するほか、枯死した植物の組織や各種の有機物で増殖し、分生子と菌核をつくり越年する。
・伝染は分生子の飛散によるが、菌の病原力はそれほど強くないので、通常は健全な葉やバルブに侵入することはなく、感染は花弁に限られる。
・しかし、多湿の状態では、腐敗した花弁などが付着している葉にも感染することがある。
・病原菌は腐生性が強いため、健全な組織からは侵入できない。このため、他の病害虫におかされた傷口などで増殖して、病原力を高め侵入する。
(2) 発生しやすい条件
・温室栽培では、冬を中心とした低温の時期に長雨が続いたり、通気不良などで多湿の状態になったりすると発生しやすい。
・このような時期に、灌水の水が花弁にかかると、多発しやすい。
・温室内の衛生不良は伝染源を保つことになり、発生しやすくなる。
・15~20℃が菌核および分生子の形成がよく、この温度帯で多湿条件がつづくと、次々と病斑上に分生子を形成して多発する。
・過乾、過湿をくり返し、生育の悪くなった株は病原菌の侵入を助けるため感染しやすい。
・花弁同士が触れあって傷口を生じたものは感染を受けやすい。

4.防除のポイント

・発病部位が商品価値の中心であるため、防除の必要性がある。耕種的対策が適切であれば、発生はほとんどみられないはずである。発生の多い場合には、温室内が過湿ではないか、夜の温度が低すぎないか、灌水の水が花にかかっていないか、などの点に注意する。
(1) 耕種的防除
① 被害残渣の除去
・第一次伝染源は、被害残渣などにつくられた菌核や分生子である。分生子を形成しやすい植物遺体などは温室内から搬出し、温室の栽培環境に注意する。
・枯葉は丹念に取り除き、病原菌の生息場所を少なくする。
・病葉や病花などを取り除いた場合、放置せずに温室外に搬出する。
② 換気
・温室内の通風・換気に努め、適温で管理する。
・発病最適条件は低温、多湿であるから特に暖房機を用いない温室密閉による保温期間は、暖房機の空回しなどによって湿度を下げる。
・降雨時には扇風機などを用いて通風して結露を防ぐ。
③ かん水
・開花中の花に灌水の水がかからないように注意する。
・地上部灌水から1鉢灌水に替えるなどで、多湿にならないようにする。
④ 衛生
・ベンチ下を清掃するなど温室内を清潔に保つ。
・病原菌は腐生性が強く、ベンチや鉢に残った栄養分を利用して増殖する。このため、使用後の資材はよく洗浄して病原菌のエサを取り除く。
⑤ その他
・間をひろげ、栽培密度を下げる。
(2) 農薬による防除
・第二次伝染源は花弁に形成された分生子である。病花は取り除き、薬剤を散布する。
・4~7月の発生は停滞型の病徴となるため防除の緊急性は低い。しかし、暖房機を用いずとも温度が保てる温室密閉時期の発生は多発にむすびつく場合もあるため、天候不順の年は薬剤で防除する。
① 予防防除
・耕種的防除に努めても発病のみられる温室では、つぼみの時期に、ダコニール1000、ベルクート水和剤、同フロアブル、ポリベリン水和剤、セイビアーフロアブル20、ビスダイセン水和剤、オーソサイド水和剤、キャプタン水和剤、サンヨールなどのいずれかを1~2回予防散布する。
② 初発後の防除
・水浸状の病斑の発生をみた場合には病花をよく取り除き、ベンレート水和剤、ポリオキシンAL水和剤、トップジンM水和剤、ロブラール水和剤、スミレックス水和剤などを1週間に1回の間隔で2~3回散布する。さらに暖房機を運転するなどの方策で温室内の換気に努め、湿度の低下をはかる。
③ 農薬使用の留意点
・花に直接薬剤がかかると薬害や薬斑を生ずるため散布にあたって注意する。
・スミレックス水和剤、ロブラール水和剤は薬害を生じやすいため注意する。
・降雨時の散布は薬液が乾くよう、午前中に行なう。
・降雨がつづいて温室内が過飽和状態の場合にはくん煙剤を用いる。