ファレノプシス・ナメクジ類

農薬に関する記述については執筆当時のものであり、農薬を使用する場合は、必ずラベルの記載事項を確認し、適正に使用すること。

1.概要

2.被害のようす

(1) 発生動向
各地で常時発生している。主要なものは冒頭に記載した3種であるが、そのなかで、ノナメクジとフタスジナメクジの発生が多い。
(2) 初発のでかたと被害
1) 初発のでかた
・ナメクジは夜行性なので、昼間は見つからないことが多いが、被害株の葉や鉢などに白く光ったナメクジ類の這い跡が残されている。
・食痕や這い跡からナメクジ類の種類を判断することはできない。
・多湿の温室では、ナメクジ類の食痕から細菌が侵入し、軟腐病など細菌性の病気が発生することがある。
2) 被害
・ナメクジ類の被害は、ファレノプシスでは地上部から根に至るすべての部分に及ぶが、特に萌芽直後の新芽や発根初期の根の先端部分は一夜にして食い尽くされてしまう。
・未熟な花茎も、先端、中間を問わずナメクジ類の食害により穴があいたり、途中から折れたりする。
・花弁や蕾や葉では、不整形の穴があいたり、端の部分から食われて欠損したりする。
・新芽や新根が食害され、花がつかなくかる。伸長した花茎も食害されて折れる。新葉や花弁も食害されて穴があき,多湿時には腐敗する。

3.害虫の生態と発生しやすい条件

(1) 害虫の生態
1) ノナメクジ
・ノナメクジは小型で、体長25~30mm、背側の色は黒っぽく、模様がない。腹側の色は背面よりも淡い。
・ノナメクジは庭や温室などでもっともよく見られる種類である。土の中や落葉などの湿気の多い場所で越冬する。成体でも幼体でも越冬でき、早春から活動を始める。成体で越冬した個体は春に産卵する。孵化した幼体は好条件下では、約35日で成体となり、産卵可能となる。産卵は春と秋の2回、土中や落葉の下などにかためて産む。1匹のナメクジは、年間に約300粒産卵する。盛夏期には一時活動を停止するが、秋になると再び活動する。温室内では冬でも活動し、野菜・花卉類を加害する。行動は夜行性で、日中は鉢の下や葉裏など、物陰に潜んでいる。雨天には日中でも活動することがある。
2) フタスジナエクジ
・フタスジナメクジは大型で体長約60mm、体色は変化が多く、灰色から黒紫色のものまであり、全体に淡褐色のものが多い。背面には3本の黒っぽい縦のすじがあるが、中央のすじは薄い。
・フタスジナメクジは、成体で越冬し、3月ころから活動し始める。年1回3~6月に産卵する。卵はゼラチン質の袋の中に40粒くらいの卵塊として小枝や雑草に産みつける。
3) コウラナメクジ
・コウラナメクジは最も大きく、体長約70mm、体色は黄色~黄緑色で淡褐色と黄白色のまだら模様がある。背面に楯状の肉板が盛り上がっている。
・コウラナメクジ(キイロナメクジ)は、幼体で越冬し、3月ころから活動を始める。この幼体は夏までに成体になり、秋に産卵する。卵は60粒ぐらいを数珠状につらねて、土中や石の下などに産む。繁殖力が盛んで各種農作物を加害する。台所などにも出没する。
(2) 発生しやすい条件
・排水不良などで絶えず多湿の温室は発生しやすい。
・棚下や温室周辺などに鉢その他の資材を置くなど、ナメクジ類の隠れ場所が豊富なところでは発生しやすい。
・温室周辺に雑草や落葉などが多く、ナメクジ類の棲息場所があるところも発生しやすい。

4.防除のポイント

(1) 耕種的防除
・温室内の除草と清掃に努めるとともに、通風と換気をはかる。
・排水をはかり、絶えず水の溜まるようなじめじめした場所をつくらないようにする。
・ナメクジ類は銅イオンを嫌うことから、温室に銅線を張るなどの方法も効果が期待できる。
・温室の周辺の整理と除草・清掃に努め、ナメクジの隠れ場所をつくらないようにする。
(2) 農薬による防除
・発生を認めたら、メタアルデヒドを含む粒剤(ナメキット、ナメクリーン、ナメトリン、グリーンベイトなど)を温室内にばらまく。5~10粒/㎡ずつまとめて鉢の上などに配置すると効果的である。温室周辺に棲息場所があるときは同様に防除する。粒剤の代わりにメタアルデヒドを含む液剤(マイキラー)の100~200倍液を散布してもよい。
・ナメクジ類は日中は物陰にかくれ夜間に活動するので、駆除剤は夕方に処理するのが効果的である。しかし、降雨にあったり灌水したりすると成分が流失し、効果がなくなるので注意する。残効も短く、せいぜい4~5日で効果がなくなるので、発生が多いときは4~5日おきに2~3回処理する。
・ナメクジ類は銅イオンを嫌うことから、炭疽病など病害の予防に銅水和剤を散布するのもナメクジ回避によいといわれている。