ショウガ根茎腐敗病について

農薬に関する記述については執筆当時のものであり、農薬を使用する場合は、必ずラベルの記載事項を確認し、適正に使用すること。

1.ショウガ根茎腐敗病の概要

(1) 病原菌
・病原菌は、糸状菌の一種であるPythium zingiberum
・Pythium zingiberumがショウガに根茎腐敗病を起こす最少菌数は明らかでないが、熊本農試の田上(1979年)によると101~102個の繁殖体/g土壌以下であると推察される。
(2) 症状
・本菌に感染した株は、茎葉地際付近に暗緑色で水浸状の変色を生じ、上部へと進展する。また、それとともに、葉の黄化が下位葉から上位葉に進み、最終的には立枯症状となり、地際部から倒伏する。
・感染した根茎は、表面あるいは内部で淡褐色から暗黒色水浸状に変色し、組織が軟化し腐敗する。
・病徴は、種ショウガ由来の場合、比較的早い生育期に認められ、土壌由来の場合、中期以降に認められる。
(3) 発生条件
・本病原菌は、栽培歴のある畑土および栽培中の畑土から、年次、地域、作型を問わず、容易に検出することができ、集約度の高い作型ほど高率に検出される。
・本病原菌の生育適温は32~35℃付近、発病適温は20~37℃とされ、発病の進展は温度の上昇とともに早くなる。
・本菌は、土壌中では主に卵胞子で存在し、伝搬は胞子のうから水中に放出される遊走子により行われる。健全ショウガに達した遊走子は、発芽管を組織に伸ばして侵入する。遊走子濃度が低い場合でも短時間で感染する。
・本菌が一度ほ場に侵入すると、感染は畝立て等の管理作業だけでなく、土壌水の移動でも急速に拡大するため、防除は非常に困難である。
・熊本県での根茎腐敗病は、一次茎の展開葉が5~8枚となる梅雨明け前後の7月中下旬から発生し、10月中旬まで発病株が増加する。

2.対策

(1) 研究の歴史
・ショウガ根茎腐敗病については、1967年の京都府立大学の桂らの研究以降、大阪府立大学、長崎県、熊本県、千葉県、山梨県、高知県、和歌山県などの各県、および農研機構野菜茶業研究所などで研究が行われている。
(2) 耕種的防除法
1) 輪作と作物の感受性
・ショウガ科の作物(ミョウガ、クルクマ等)、インゲンマメ、エンドウ、エンバク、オオムギなどはPythium zingiberumに対して感受性であるが、ナスやカブ、ダイコンなどの後作物栽培中に菌数が激減するなど、本菌の各種作物に対する寄生力は比較的弱いと考えられ、輪作の効果が高いと考えられる。なお、カブ、ニンジン、ゴボウ、シュンギク、ヒャクニチソウは強抵抗性ないしは不感受性である。
・大阪府立大学の調査では、6年以上の輪作畑からは菌が検出されなかった。
2) 菌糸の死滅温度と堆肥化
・ショウガ廃棄物の捨場には本菌が生存しているが、比較的短期間に検出されなくなる。一方、ショウガの洗い水が流入する排水溝には、本菌が長期間にわたって生存しており、明らかに感染力を有していることが認められている。
・Pythium zingiberumの菌糸の死滅温度は44~46℃、60分間で、茎葉を堆肥化することにより、病原菌の菌糸は死滅する。ただし、ショウガ茎葉は水分含量が高いため、そのままでは発酵が困難で稲わらなどで水分調整をする必要がある。
(3) 化学的防除法
1) 種子消毒
・薬剤による種子消毒については、根茎表面に付着した土壌中の病原菌については効果が期待できるが、内部まで進行した病原菌については効果がないと考えられる。したがって、種ショウガは無病ほ場から採種したものを植え付ける必要がある。
・根茎腐敗病の種子消毒法として有効な方法として、温湯消毒(45℃・30分または50℃・10分)がある。
2) 土壌消毒
・土壌消毒については、被覆が不完全であったり、処理期間が不十分であったりすると効果が低下するので、確実に消毒法を遵守することが大切である。
・2014年公表の和歌山県農業試験場の成績によると、病原菌の殺菌効果はディ・トラペックス油剤で高く、2月の処理、7月の処理ともクロルピクリン錠剤より効果が高かった。
・2014年公表の熊本県農業研究センターの薬剤防除体系試験結果によると、クロルピクリンくん蒸剤(クロルピクリン錠剤)は定植後60日間、ダゾメット粉粒剤(バスアミド微粒剤)は定植後75~90日間、根茎腐敗病菌密度を抑制することが明らかとなった。また、低温期にダゾメット粉粒剤を使用する場合、事前に20日間以上ほ場に農業用ビニル(厚さ0.05mm)を被覆して予熱処理を行うと、防除効果がより高まり安定した。
3) 生育期処理
・1988年公表の山梨県総合農業試験場の防除試験では、リドミル粒剤10a当たり20kgを発病初期から2週間間隔で3回散布すると、高い防除効果が認められた。ただし、2006年の高知県農業技術センターの報告によると、リドミル粒剤については、薬剤耐性菌の発生による防除効果の低下が疑われており、注意が必要とされている。
・2010年公表の長崎県農林技術開発センターによるランマンフロアブルの効果的な灌注開始時期の試験結果によると、4月下旬植付の露地ショウガの場合、根茎腐敗病は6月中旬以降に初発生し、ランマンフロアブルによる灌注処理の開始時期は、出芽揃い(全体の8割程度が出芽)から行うのが効果的であった。また、灌注量は、500倍・1L/㎡に削減しても1000倍・3L/㎡と同等の防除効果が得られた。
・2012年公表の高知県農業技術センターによる各種殺菌剤の防除効果の判定試験結果によると、予防効果が高かったのは、ランマンフロアブル(500倍・3L/㎡)とオラクル顆粒水和剤(2000倍・3L/㎡)で、治療効果が高かったのは、ランマンフロアブル(500倍・3L/㎡)とユニフォーム粒剤(18g/㎡)であった。
・2014年公表の和歌山県農業試験場の成績によると、生育期処理資材の体系として、オラクル顆粒水和剤2000倍・1ℓ/㎡、ランマンフロアブル500倍・1ℓ/㎡または1000倍・3ℓ /㎡とユニフォーム粒剤18kg/10aの組み合わせが有望で、処理順序はオラクル顆粒水和剤、ランマンフロアブルから開始する体系が、安定した効果が得られると考えられた。
・2014年公表の熊本県農業研究センターの薬剤防除体系試験結果によると、ランマンフロアブル(1000倍・3L/㎡)を根茎腐敗病の発生前に1回、その後3週間間隔で合計3回かん水チューブで処理すると、高い防除効果が得られた。

3.まとめ

以上、これまでの試験成績等から、ショウガ根茎腐敗病の対策としては、次のような事項があげられる。
① できるだけ過去5年間ショウガを作付していないほ場で栽培を行う。
② 温湯消毒が可能な場合を除き、入手可能であれば、できる限り採種ほ産の無病種子を使用する。
③ 種ショウガを分割するとき、根茎の表皮や芽、割口に変色や腐敗がないことを必ず確認する。
④ 過去5年間にショウガを栽培したことのあるほ場で栽培を行う場合や採種ほ産の種ショウガを利用できない場合、温湯消毒ができない場合は、根茎腐敗病の発病を遅らせるため、土壌消毒を行う。費用や取り扱い性、効果の観点から、ディ・トラペックス油剤、バスアミド微粒剤、クロピクフローが候補としてあげられる。
⑤ 生育期処理は、1回目の防除が重要で、根茎腐敗病の発生前にランマンフロアブル500倍・1ℓ/㎡またはオラクル顆粒水和剤2000倍・1ℓ/㎡で行う。種ショウガが保菌している場合は、初発が早まるので注意が必要である。
⑥ その後の生育期処理は、ランマンフロアブルで始める場合は、ランマンフロアブル-オラクル顆粒水和剤-ユニフォーム粒剤(これを繰り返す)のように薬剤を変えてローテーションを組み、20日間隔で防除を行う。
⑦ 生育期には、防除を行うとともに、発病株は見つけ次第ほ場外に搬出し、できれば堆肥化処理を行う。