農薬に関する記述については執筆当時のものであり、農薬を使用する場合は、必ずラベルの記載事項を確認し、適正に使用すること。
1.概要
2.被害のようす
(1) 発生動向
1988年に沖縄県における施設栽培のファレノプシスとドリテノプシスに初めて発生が認められた新しい病気である。
(2) 病徴と被害
1) 病徴
・主として苗が侵される。はじめ根の一部が褐変する。褐変部分は拡大するとともに腐敗する。さらに進行すると根の基部から根頭部まで侵されて褐変腐敗し,その表面に白色の菌糸が生じる。のちになると病斑上に赤褐色の小粒点(子のう殻)が生じる。
・葉では、はじめ葉の基部を包み込むような水浸状の斑点を生じ、やがて腐敗し、枯死する。
2) 被害
・根が侵され病状が進むと、地上部はしおれ、株全体が枯死する。葉が侵され病状が進むと、株全体が萎ちょうして枯死する。
3.病原菌の生態と発生しやすい条件
(1) 病原菌の生態
・病原菌は三日月型の大型分生子と楕円形の小型分生子をつくり、厚膜胞子を生じる。これらは不完全時代の器官で、完全時代には赤褐色亜球形の子のう殻をつくり、その内部には8個の子のう胞子を含む棍棒状の子のうを多数形成する。
・病原菌は通常、罹病組織とともに、子のう胞子や厚膜胞子の形で土壌中で越年するが、ファレノプシスではミズゴケなどの用土や古い鉢に付いて越年する。病原菌の各種の胞子が発芽すると、発芽管から菌糸が伸長してファレノプシスの根に侵入し、根から地際部を褐変腐敗させる。
(2) 発生しやすい条件
・用土や鉢が病原菌に汚染されていると、きわめて発病しやすい。
・ミズゴケなどの用土に古いミズゴケが混入したり、病原菌の汚染を受けたりした場合に発病しやすい。
・苗床の管理が過湿の場合も発生が多い。
・過乾、過湿をくり返し、生育の悪くなった株は病原菌の侵入を助けるため感染しやすい。
・肥培管理と発病との関係が強く、多肥培養された株は発病しやすい。
・病原菌は腐生生活を好むため、植物の残渣があると増殖する。
4.防除のポイント
(1) 耕種的防除
① 被害残渣の除去
・発病した株は温室外に持ち出し、ビニールの袋に詰めて嫌気的に発酵させるかまたは焼却して処理する。
・枯葉を丹念に取り除き、伝染源を少なくする。
② 換気
・多湿は伝染を助長するため、換気をして湿度を下げる。
③ 消毒
・病原菌は土壌中で長い間生存するため、植込み材料、鉢は蒸気で消毒する。
④ 衛生
・ベンチ下を清掃するなど温室内を清潔に保つ。
・管理作業時に手から伝染するため、作業前後に手をよく洗う。
⑤ その他
・毎年苗床で発病のみられる場合には、苗床周辺が病原菌に汚染されているとみられるので、苗床を別棟に設ける必要がある。
(2) 農薬による防除
農薬による防除法は確立されていない。
① 初発後の防除
・発病をみた場合には緊急の防除が必要となる。病葉を取り除き、ベンレート水和剤やトップジンM水和剤を散布する。
② 効果の判定
・病徴が停止すると発病部が乾固してミイラ状となる。
・病株上の白~赤紫の分生子は死滅すると黒変する。
③ 農薬使用の留意点
・防除効果のある薬剤がベンレート水和剤とトップジンM水和剤のみであるため、発生の認められない温室では、これらの薬剤を使用せず、資材の消毒を完全に行なう。
・ベンレート水和剤は濃い濃度で灌注すると根に障害を出しやすいため、2,000倍程度の薄い濃度で用いる。
・花に薬剤が付着すると薬害や薬斑を生じやすいため、花にかからないように散布する。