コマツナの栽培

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Ⅰ.コマツナの概要

1.コマツナの導入

(1) 栽培面での特徴
・コマツナは漬け菜類の代表種で、最も栽培しやすい葉菜のひとつである。
・本来は秋まきの野菜であるが、生育期間は30~45日と短く、トンネル被覆など簡単な保温をすることで周年栽培が可能である。
・栽培面でのポイントは、計画的な堆肥の投入による土づくりと、充実した良質のタネの入手、マルチングや寒冷紗被覆での地温の調整、種子の予措を行って播種するなど、発芽の促進、斉一化を図ることである。
(2) 経営面での特徴
・全国的に作付面積、生産量とも増加している野菜である。
・大都市近郊での栽培が多い野菜である。

2.来歴

・コマツナは、園芸学上ツケナと呼ばれる野菜の中の一つで、その野生種はロシア、シベリア、コーカサス、スカンジナビア半島、デンマーク、フィンランドなど亜寒帯地方に見られる。
・ツケナの歴史上の記載はヨーロッパでは紀元前数世紀にすでにあるが、葉菜としてほとんど利用されておらず、野菜として発達したのは中国で2世紀には「胡菜」などと呼ばれ、唐の時代には「菘」として栽培化された。
・わが国へは、中国から直接または朝鮮半島を経由して伝来したと考えられ、古事記(712年)に「菘」の記載があり、和訓をアオナとしており、わが国の野菜の中で最も古いものである。
・このようにして日本に導入されたツケナ類が全国各地に広まり、丹波菜・京菜・壬生菜・長岡菜・宮内菜・広島菜・大阪白菜・野沢菜・三池菜など、それぞれの地方で独特の地方種を生み出した。
・コマツナは、中国から入ったカブの一種「茎立菜(クキタチナ)」をもとに交雑・改良して江戸時代中期に誕生したと推測され、東京都江戸川区の葛西、小松川地域で栽培されていたことから「小松菜」の名前がついたとされている。
・コマツナはその後全国に広がり、新潟県の「女池菜(めいけな)」や「大崎菜」、福島県の「信夫菜(しのぶな)」、関西の「黒菜」など各地でいくつかの系統が誕生している。

3.分類と形態的特性

(1) 分類
・アブラナ科アブラナ属の一年草である。
(2) 根
・コマツナは直根があまり伸びず、細根が地表近くで横に広がる性質がある。
(3) 葉
・葉形には大きく三つのタイプがある。
・最も多いのは中間型で、大部分の品種がこのタイプである。
・丸葉の品種(無袴型)は相対的に耐暑性が強く、ビワ葉(有袴型)の品種は弱い傾向が見られる。
・葉色には緑色の濃淡などがある。
(4) 花芽分化
・タネまき後、20日目以降の生育後半に一定の低温にあうと花芽分化を誘発する。
・その程度は品種間で差があるが、10℃以下で3週間ほど経過すると花芽ができ、花芽分化後は高温長日で促進される。

4.生育上の外的条件

(1) 温度
・タネの発芽適温は15~35℃と幅が広く、生育適温は20~25℃である。
・耐寒性が強く氷点下になっても枯死しない。
・適度な水分と酸素、光があれば20~35℃で約24時間後、15℃では3日後に発芽する。
・4~8℃くらいの低温でも、8日で85%程度の発芽率に達する。
(2) 土壌
・好適pHは6.0~6.5であるが、酸度は少し強くてもよく生育し、ホウレンソウやシュンギクなどに比べて作りやすい。
・品質のよいものを作るには、沖積土のやや重い土が適している。

5.品種

・北海道で作られているコマツナの主な品種は次のとおりである。
(1) きよすみ(サカタ)
・生育は緩やかな中生品種で、周年栽培が可能である。
・草姿は立性、葉は小さめで平滑な短楕円形で葉軸の太さは中程度でよくしなるため折れにくく、根の泥落ちもよく収穫調製しやすい。
・葉色は濃緑で光沢にすぐれ、食味が良い。
・萎黄病、白さび病耐病性をもち栽培が容易である。
(2) はっけい(サカタ)
・生育は緩やかな中生品種で特に耐暑性にすぐれ、周年栽培が可能である。
・草姿は極立性で葉柄部は太く株張りがしっかりとしており、葉色は濃緑でテリが強い。
・高温期栽培でも葉が伸びすぎず、節間も伸長しにくく、がっちりとした株ができる。
・萎黄病、白さび病に耐病性がある。

6.作型

・北海道での主な作型は次のとおりである。
(1) 早春まきハウス
・2月中旬~4月中旬は種、4月中旬~5月下旬収穫
(2) 春まきトンネル
・4月上旬~4月中旬は種、5月下旬~6月上旬収穫
(3) 雨よけ
・4月下旬~9月上旬は種、6月上旬~10月上旬収穫
(4) 秋まきハウス
・9月上旬~10月上旬は種、10月中旬~11月下旬収穫

Ⅱ.コマツナの栽培技術

1.畑の準備

(1) pHの矯正と土壌改良
・コマツナは酸性が強くてもその影響が少ない野菜であるが、順調な生育をさせるには中性に近い状態にすることが大切で、pH6.0~6.5を目標に改良する。
(2) 堆肥の施用
・完熟堆肥を1~2t/10a施用したり、緑肥を導入するなどして、水はけよく保水性に富む土壌環境をつくることが大切である。
・コマツナへの堆肥施用は、土壌団粒化の促進による作物生育や収穫作業性の改善のほか、連続作付けによって失われる微量要素の補給の効果も高く、計画的な堆肥の投入が重要である。
(3) 輪作
・比較的連作に強いが、一度栽培したところでは少なくとも1年は栽培しないようにする。

2.施肥

(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・収穫まで日数が極めて短い作物で、養分の吸収力は強いといえる。
・コマツナの養分吸収量は、リン酸、石灰、苦土などは少なく、カリを窒素の4割も多く吸収する。
・窒素、リン酸、カリのバランスから考えると6:2:9程度になるが、基本的には1:1:1のように、3成分が同量含まれている肥料を元肥として施用するのが良い。
・養分の吸収は播種後40日頃が最も盛んで、48日頃になると吸収量が著しく減少する。
・吸収の最盛期には総養分吸収量の50~70%がすでに吸収されているので、施肥は元肥を重点にし、幼植物期に肥料不足にならないようにすることがポイントとなる。
2) 窒素
・10a当たり窒素成分量で7㎏、ハウス栽培では5㎏を標準とし全量元肥とする。
・高温期栽培では施肥量を5割減らし、窒素過多による過繁茂や生理障害をさける。
・ハウス栽培では、1作目に北海道の施肥基準である窒素施肥量12kg/10a を施用し、次の作型から土壌残存窒素量1mg/100g に対し窒素施肥量1kg/10a を目途に3kg/10a まで減肥する。
・窒素の形態については、硫安のようなアンモニア態のものだけを施すと生育が劣り、異常な生長をする株が目立つようになる。
・アンモニア態窒素より硝酸態窒素を好む作物なので、硝酸化成の遅い土壌では、硫安などのアンモニア態窒素肥料よりも硝酸態窒素肥料の施用の方が効果的である。
・アンモニア態の窒素でも元肥を早めに施用して、土中で硝化菌の作用で硝酸態に変化させておけば利用できる。
・硝酸態の窒素を7割以上にすると生長や収量が優るという試験結果が出ており、尿素態の窒素は同量の硝酸態窒素よりさらに生育がよくなるとも言われている。
・コマツナは目的収穫物が栄養生長物である植物体そのものであり、単一生育相の初期生育段階で収穫されるため、土壌中に窒素を残存させることが要求される。
3) リン酸
・コマツナは他の野菜では吸収しづらい難溶性のカルシウム型リン酸の一部も吸収利用できる特性を持っている。
4) その他の要素
・コマツナはカルシウムの吸収量が多いことから年間作付け回数が多い場合、石灰の施用に十分な配慮が必要である。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・春夏作は生育期間が極めて短いので、速効性肥料を主体とした全量基肥施肥が望ましい。
2) 施肥設計(例)

 区分 肥料名 施用量(kg/10a) 窒素 リン酸 カリ 苦土 備考
基肥 NS262 100 12.0 16.0 12.0 0.0 ・2作目からは土壌残存窒素量1mg/100gに対して窒素施肥量1kg/10aを目途に3kg/10aまで減肥する
合計 100 12.0 16.0 12.0 0.0

 

3.播種

(1) 時期
・春まきは平均気温が13℃以上になってから播種するが、それより低温条件ではハウス栽培か被覆資材を使ったトンネル栽培で地温を確保する必要がある。
(2) は種方法
・ベッドの幅は、露地ではべたがけ被覆資材の幅、トンネルでは間口の幅、ハウスでは通路を考慮して有効利用が図れる幅とする。
・コマツナのように栽培期間の短い野菜では、発芽の良しあしが収量に直接影響を与える。
・充実した良質のタネを入手し、播種時期によってはマルチングや寒冷紗被覆で地温を調節したり、種子の予措を行って播種するなど発芽の促進、斉一化を図る。
(3) 栽植密度
・条間×株間:10~15×3~4(春・秋)、15~20×4~5(夏)
・高温期は徒長、節間伸長を抑えるため株間を広めにとる。

4.管理作業

(1) かん水
・は種後から発芽直前までは十分にかん水を行い、発芽を揃える。
・生育中のかん水は、土の乾き具合や天候、伸び具合を見て適宜行う。
・本州ではハウスのべた掛け栽培で、播種時に十分なかん水をした後は徒長を防ぐために生育期間中一切かん水しない栽培法をとっている事例もある。
(2) 温度管理
・多湿および高温、弱光線は胚軸が伸びすぎるので、保温・換気で調節する。
(3) 間引き
・揃いのよい株を作るため、間引きを行う。
・本葉が2枚くらいに育ったころ、葉が奇形のものや伸びの悪い株を重点的に株間3cmくらいの間隔に間引く。
・さらに、本葉が4枚くらいのころ5~6cmの間隔に間引く。
・ツケナ類の中でもコマツナは葉が育つのが早く、間引きが遅れると込み合って軟弱になる傾向が強いので、遅れないよう早めに株間もやや広めに間引くようにすると品質のよいものが収穫できる。
(4) 被覆
・露地の場合、発芽前に降雨にたたかれると発芽を損ねることがあるので、発芽してくるまで寒冷紗などをベタ掛けしておくとよい。
(7) 追肥
・基本的に元肥中心の施肥をするので生育が順調なら追肥の必要はないが、生育が思わしくなかったり、葉色がさえないとき、栽培が比較的長期になる作型、降雨の多いときの露地栽培などでは尿素等の葉面散布か追肥を行う。

5.主な病害虫と生理障害

(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、萎黄病、白さび病、炭疽病、軟腐病、根こぶ病、べと病、リゾクトニア病などである。
(2) 虫害
・北海道において注意を要する主な害虫は、アブラムシ類、キスジノミハムシ、コナガ、ナガメ、モンシロチョウ、ヨトウガなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、カルシウム欠乏症、ホウ素欠乏症などである。

6.収穫

(1) 収穫適期
・高温期では25~30日、低温期栽培では40~60日くらいで、草丈25cm前後(24~27cm)になったら収穫する。
(2) 収穫方法
・根つきで引き抜いてハサミで根を切るか、包丁で根を切り水洗いする。
・収穫時に根部を地中に残すと萎黄病、根こぶ病など土壌病害の原因となるので注意が必要である。
・収穫時に子葉と外側の黄化しやすい本葉を1~2枚ほど落とすとたなもちがよくなる。
・収穫後は品質低下を避けるため、予冷庫(10~15℃)等を利用して鮮度を保持する。
・高温期栽培では収穫遅れにならないように、収穫労力に合わせた播種面積を計画する。