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Ⅰ.ピーマンの概要
1.ピーマンの導入
(1) 栽培面での特徴
・他の果菜類に比較し整枝誘引、病害虫防除などに多くの労力を必要とせず、収穫物の取り扱いも容易で、高度な栽培技術を必要としない。
・栽培面でのポイントは、健苗を育成し適期に定植することと、定植後の摘果(花)により草勢の調整を行い収穫開始頃までの生育初期の養水分環境を適正にすることで、長期の安定した生育相を得ることである。
(2) 経営面での特徴
・1人当たりの栽培面積は収穫労力の関係から、10~15a程度である。
2.来歴
・ピーマンは南アメリカの熱帯地方を原産地とするナス科のトウガラシ属(トウガラシ、パプリカを含む)の植物である。
・日本では辛味の強いものをトウガラシ、弱いものをピーマンと呼んでいるが、両者を分ける明確な定義はない。
・ピーマンはさらに、ベル型(果実がほぼ立方体でパプリカと呼ばれる)、シシ型、シシトウに分けられる。
・原産地の熱帯アメリカでは、紀元前7500年頃にはトウガラシが食べられていたといわれており、インディオによってさまざまな品種が生み出されていたと考えられている。
・15世紀末にコロンブスによって新大陸が発見され、まずスペインにもたらされ、欧州に広まった後急速に世界中へ伝播した。
・甘味種(ピーマン)は、ヨーロッパで改良され1774年にピーマンの代表品種ベルが、1828年にカリフォルニア・ワンダーが生まれた。
・日本へは16世紀の中後期にトウガラシが渡来し、江戸時代に「番椒(たうがらし)」という名で普及した。
・いっぽう甘味種(ピーマン)は明治時代になってから伝わったが、一般家庭に普及したのは昭和30年代の後半になってからである。
・その後、在来種などとの交配が進んだ結果、果肉が薄く栽培の容易な品種が誕生し、現在の主流となっている。
・また、平成5年以降は大型の赤や黄色パプリカの輸入が増え、現在では小型の赤ピーマンなども市場に出回るようになっている。
3.分類と形態的特性
(1) 分類
・ナス科トウガラシ属の野菜である。
(2) 根
・ピーマンは同じナス科のナスやトマトと比較して根が細く、浅く分布している。
・初生根はまっすぐに伸張するが、移植栽培の場合、直根はほとんど切断される。
・残った直根や茎の基部から側根が多数発生し、土壌表面に広がり、後に下方に伸張し、根系が形成される。
・肥料不足、かん水不足になると生育が劣るので、絶えず肥料を効かせこまめにかん水することが必要である。
・ただし、多肥になりすぎると細根となり根を弱め、生育を阻害するので注意が必要である。
(3) 茎
・1番果が第11節につくと分枝する。
・分枝の数は、播種期や育苗初期の温度(特に夜温)が影響し、20℃以上の高温で2分枝、10℃位の低温で3分枝(不完全3本分枝)が多くなる。
・その後、次々に2本ずつ分岐して数多くの分枝が発生する。
・分枝は必ず1本は太くたくましいが、一方の枝は細く弱々しいものになる。
(4) 葉
・葉の分化発達の仕方は、種子の幼芽中に2枚の葉を持っているが、その後、葉序は5分の2の形で発生してくる。
・1枚の葉が1㎠の大きさから展開し終わるまで約25日かかり、開花はその節の葉が展開し終わる直前に起きる。
・葉の大きさは主枝>側枝>孫枝の順に小さくなり、同じ順で着果率も低くなる。
・茎葉中の養分濃度は、ほとんどの養分で葉の方が茎より多い。
(5) 花器
・花芽が分化してからがく片・花弁の発生まで7~8日、その後、雄ずい・雌ずいの発生まで 7~8日、花粉・胚珠の形成まで10日、次いで開花まで5日ぐらいかかる。
・花弁および雄ずい数は、在来品種では5~6だが洋種系品種では7~8の花も多い。
・花の着生は大部分が単独である。
・花弁は白色で葯は青紫色を呈する。
・ピーマンの花は午前8時~10時頃開花し始め、2~3日はそのまま開花を続け、その後、花冠(花びら)が褐変枯死する。
・花の形態は長花柱花(めしべが長い花)が正常花で結実しやすく、短花柱花(おしべが長い花)は落果しやすい。
・株の栄養状態が良好な時は正常花が多いが、成り疲れ時、栄養状態不良時、高夜温や日照不足の時は短花柱花が増加する。
(6) 果実
・葉の大きさと果実の大きさとの間に相関がみられるが、形については品種によって異なり、小型種は細長く、大型種は丸型である。
・果実の大きさは変化しやすく、栄養状態、着果数、着生位置、着生時期あるいは受粉の良否によって変わりやすい。
・低温期には、全く受精していない単為結果の種なし果が発生する。
・開花・結実によって肥大する果実の数を坦果数という。
・坦果数が増大すると、新たに分化発達してくる花の素質が不良となり、結実率が低下する。
・坦果数が最大に達する頃に結実率は最低になる。
・収穫や結実率の低下によって坦果数が減少し始めると、花の素質が良好になり、開花数が増加し結実率が向上する。
・以上のように坦果数、開花数、花の素質が関連して着果周期の波が形成される。
4.生育上の外的条件
(1) 温度
・ピーマンは高温性のナス科作物で、発芽適温は30℃前後で生育適温は日中25~30℃、夜間17~23℃である。
・15℃以下では生育が衰え受精しにくく単為結果の種なし果(石果)や変形果が多くなり、12℃以下では生育はほぼ停止する。
・逆に、32℃以上の高温では落花(落果)が多くなる。
・ハウスの最低温度は窒素、カリの吸収面から18℃、地温は20℃を確保するのがよい。
(2) 水分
・果実の生産上大量の水が必要である
(3) 光
・光線に対しては弱光線に耐える果菜で、光飽和度は3~4万ルクス程度といわれており、トマト、メロン、スイカなどほかの果菜の半分以下で、果菜類の中では促成栽培に適している作物である。
・ただし、光量が不足すると収量が低下するので、光線を十分与えることが大切である。
(4) 土壌
・土壌の乾燥や加湿には弱く、根群伸長(根張り)が比較的狭いので、保水性・通気性の良い肥沃な土壌が適する。
・pHは6.0~6.5が適している。
5.品種
・北海道で作られているピーマンの主な品種は次のとおりである。
(1) みおぎ(園研)
・1998年に園芸植物育種研究所で育成された早生の品種で、北海道の作付面積のおよそ5割を占めている。
・草勢はかなり強く主枝の伸長は旺盛、やや大葉でやや節間が長く、花数は多くないが肥大性に優れている。
・果実はやや縦長で果肉は薄めであり、緑色の中大果種である。
・硬くなりにくいので赤熟果の発生が遅く肥大が早いことから、一般的な30g収穫よりやや大き目で収穫可能である。
・露地の栽培においても黒変果の発生が少ない。
・青枯病、トウガラシマイルドモットルウイルス(PMMoV)の病原型 (P1.2)に対する抵抗性のL3遺伝子を有している。
・草勢が弱ると凹み果が多くなり芯止まりになりやすいので、初期に草勢を確保すること、また、枝が伸びやすいため適切に整枝することが大切である。
(2) さらら(園研)
・1996年に園芸植物育種研究所で育成された早生の品種。
・果色が濃緑で果肉はやや厚く、果形はやや長めでそろいが良く秀品率が高い。
・臭いが少なく甘味があり、夏期においても品質の低下が少ないが、果皮が硬くなりやすい性質がある。
・従来のピーマンよりクロロフィル、ビタミンC、アスコルビン酸含量が多い品種である。
・露地栽培では果実の肥大が悪く、硬くなったり芯止まりになりやすいことから、ハウス・雨除け栽培専用の品種と位置づけるべきである。
・青枯病、トウガラシマイルドモットルウイルス(PMMoV)の病原型 (P1.2)に対する抵抗性のL3遺伝子を有している。
・落果が少なく着果負担が大きく芯止まりになりやすいので、初期に草勢を確保することが大切である。
(3) あきの(園研)
・1975年に園芸植物育種研究所で育成された早生の品種。
・高温期の生育が旺盛であるが草勢が弱ると適当に落果し、分枝数が多すぎないことから長期間にわたって生育が安定し多収が得られる。
・果実は少ししわがあり、果肉は薄めで肥大が早く柔らかく、30~40gで収穫する。
・果色は極めて濃緑で市場性が高く、高温期においても色あせしない。
・果肉が薄いことからサラダ向けにも使用可能である。
・トマトモザイクウイルス(TMV)に極めて強く、青枯病にも抵抗性がある。
・夏期に乾燥すると果形が乱れやすく、尻腐れ果が多くなるのでかん水を多めにする。
6.作型
・北海道での主な作型は次のとおりである。
(1) 半促成
・1月中旬~2月上旬は種、4月上旬~4月下旬定植、5月中旬~10月下旬収穫
(2) トンネル早熟
・2月中旬~2月下旬は種、5月上旬~5月中旬定植、6月上旬~10月上旬収穫
(3) 露地
・3月下旬~4月上旬は種、6月上旬~6月中旬定植、7月中旬~10月上旬収穫
Ⅱ.ピーマンの栽培技術
1.育苗
(1) 施設・資材の準備
・高温性植物なのでは種床30℃、移植床22℃以上が確保できるように電熱や温風暖房機などを用意する。
・また、育苗時期が早いので光線透過の良いハウスを利用し、カーテンやトンネル資材、断熱マットなどを準備する。
・なお、本畑10a当たりの育苗面積は100~120㎡程度(育苗本数やポットの大きさで異なる)必要である。
(2) 育苗土
・育苗日数が長いので育苗床土は肥沃で保水性のあるものを用意し、前年に土壌消毒をして使用する。
・育苗土は土壌診断によりpH6.0~6.5、EC(塩類濃度)0.6~0.8mS/cm、有効態リン酸30~50㎎/100gの適正値のもの、または、市販の育苗培土を準備する。
(3) 種まき
・200穴セルトレイを使用し、本葉2~2.5葉で12cmポリポットに移植する。
・は種後のかん水は覆土が流亡しないように注意し、トレイの下から水が浸み出す程度にたっぷりと行う。
・種子は10a当たり30~40ml準備し、種子伝染するTMV-トウガラシ系防除のために乾熱処理したものを使用する。
・は種時期は、定植時期から逆算して決める。
(4) 発芽
・発芽には28℃程度の高い地温と十分な湿度が必要で、これらが満たされるとは種から7日程度で発芽が揃う。
・発芽揃いまでは土の表面を乾かさないように、やや多湿気味に管理する。
・温度不足や乾燥などの条件下では発芽率が低下し、奇形苗が発生しやすくなるので注意する。
(5) 移植までの管理
・温度管理は気温は日中28~30℃、夜間20℃とする。
・換気は日中温度が30℃以上にならないように、曇雨天日でもモヤを抜くために数回しっかり行う。
・かん水管理は天気のよい日の午前中にたっぷりかん水し、曇りや雨天時は控えめとする。
・苗の大きさに応じてかん水量を増やすが、水のやりすぎは根傷みや徒長の原因となるので夕方には床土表面が乾く程度とする。
・なお、かん水は地温低下を防止するため、ハウスに溜置きした水を使用する。
・肥料が切れると葉色が薄くなるので、やや薄めの液肥を週2回程度施用する。
(6) 移植(鉢上げ)
・は種後25日頃、本葉が2葉になった頃に移植する。
・育苗トレイは底面給水で水をしっかり含ませておき、そこから丁寧に苗を取り出し12cmのポリポットに鉢上げする。
・このときに深植えにならないよう十分注意する。
・鉢上げ時は苗床より2~3℃高めの温度で管理し、活着を促進させる。
・鉢上げ後、活着までの3日くらいは遮光をする。
・ただし、朝と夕は遮光しないで日光にあてる。
(7) 定植までの管理
・温度管理は、日中の温度は定植時まで移植前と同じでよい。
・夜間の温度は、苗が大きくなるに従い少しずつ下げる。
・本葉5 枚目で18℃、7 枚目で16℃、9 枚目14℃、開花時12℃が目安である。
・地温も少しずつ下げ、最終的に14~15℃まで下げる。
・花芽との関連では、本葉4枚ころから花芽分化が始まり、気温15℃以下では奇形果が多くなり、30℃以上では花芽が退化するので温度管理には十分注意する。
・かん水管理は、水は晴れた日の午前中に1日分の量を与える。
・苗の大きさに合わせてかん水量を増すが、夕方に水が残ると葉が大きくなりすぎ、しおれやすい苗になるので注意する。
・葉色が薄くなってきた場合は、週2 回程度液肥を与える。
・定植時期は第一次分枝の開花前で、定植7日前ころから定植に備えて苗の馴化を図り、定植前には夜温、地温とも15℃まで下げて換気も多めにする。
(8) 育苗に関するその他の技術
1) 接ぎ木
・ピーマンは、自根でも比較的土壌病害に対して強いため、接ぎ木の採用率は5%未満と思われるが、臭化メチルの全廃、気候の温暖化にともない、今後、接ぎ木の必要性が増加すると考えられる。
2) 保温資材の効果
① トンネルの保温効果
・ハウス内でフィルムのトンネルを使用した場合、外気温が0℃のとき、約4℃程度の保温効果があるとされている。
② べたがけ資材の保温効果
・不織布のべたがけ(定植時の仮支柱を利用した直がけ)の保温効果は、1~2℃程度である。
・ただし、べたがけ(直がけ)は資材と植物が接触すると生育が抑制され、収量が少なくなることがあるので、除去時期などに注意が必要である。
③ マルチによる地温上昇効果と収量
・早春期における地表下10cmの地温上昇効果は、透明のポリマルチで約6℃、配色(中央が透明で両側が黒)で約4℃であるが、黒、銀、白黒(白が上)のポリマルチでは0.5~2℃程度である。
3) 根張りをよくするためのポイント
・初期の根張りをよくする上で、非常に重要なのが苗を老化させないことである。
・移植時や定植時に老化苗になっていると活着が遅れ、その後の作柄に大きなマイナスになる。
・第1花の蕾が見える前にポットに根が回ってしまった時は、その時点で畑の準備ができていれば定植するか、できなければより大きなサイズのポットへ移植し、苗の老化を極力避ける。
2.畑の準備
(1) 適土壌と基盤の整備
・ピーマンは土壌の乾燥や過湿に弱く根張りが比較的狭いので、保水性が高く肥沃な土壌が適している。
・明暗きょの設置や高畝栽培、心土破砕等を実施して通気性を確保する。
・作土層は15cm以上必要であるが十分な根張りを確保するため、下層土に耕盤が形成されている場合には深耕ロータリによって有効土層を確保する。
(2) pHの矯正と土壌改良
・土壌改良はpH6.0~6.5、有効態リン酸30mgを目標とする。
・石灰は定植の30日前までには全面に施用し、丁寧に耕起しておく。
(3) 堆肥の施用
・堆肥等の有機物は前年秋に4~6t/10a施用する。
・ピーマンの根は通気性、保水性のある土壌を好み生育期間も長いので、できるだけ堆肥を多用する。
・有機物の施用は土壌の緩衝能を高め濃度障害回避にもつながるので、積極的に投入すべきである。
(4) 輪作
・連作すると土壌伝染性の病害が発生しやすくなり、収穫量が極めて少なくなるので4~5年の輪作とする。
・トマトやナス、ジャガイモも同じナス科であるのでこれらとの連作も避ける。
3.施肥
(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・10a当たり果実1t収穫時の養分吸収量は窒素3.2kg、リン酸1.2kg、カリ3.2kg程度である。
2) 窒素
・窒素は活着後から収穫終了まで必要で、過剰施用はカルシウムの吸収を阻害する。
・ハウス通年栽培の場合、硝酸態窒素利用率は70%、熱水抽出窒素利用率は40%程度である。
・日照不足の時は、窒素レベルを低めに維持する(窒素を多くすると収量が低下する)。
・また、着果に伴って根への同化物の分配が減少し根の機能を弱めるので、窒素の吸収を促すために着果を調節する。
・土壌中の適正な窒素濃度は10~20mg/乾土100gと考えられ、10mg以下だと葉色が薄れ肥料切れ、25mg以上だと生育が抑制される。
・一般に葉中の窒素濃度は4%以上が望ましく、1.26%以下で欠乏が起こる。
・窒素過剰の場合、果実は果肉が厚くなり果長が伸びず、表面が光沢を帯びた丸形のものになりやすい。
3) リン酸
・リン酸は定植時に必要で、収穫期間は吸収量が少ない。
・有効態リン酸30mgが目標であるが、むしろリン酸が過剰のハウスが多いので注意が必要である。
・リン酸が欠乏すると葉が細長く、果径が細く、果形が乱れる。
4) カリ
・カリは開花期頃から急激に吸収量が増え、収穫終了まで続く。
・カリの吸収量は窒素より多いが、土壌等からの供給を考えると窒素と同等の施肥量で十分である。
・カリが欠乏すると茎葉の伸長が抑えられ、果実収量が低下する。
・カリは果実収穫開始頃から吸収量が急増するが、この時期に不足すると落葉などの欠乏症状が出やすい。
・カリは不足してから施しても回復が遅いので、あらかじめ体内に蓄積させておくことが重要である。
5) その他の要素
・要素欠乏による生理障害として、苦土欠や石灰欠によるしり腐れ果が発生しやすい。
・ピーマンは多肥耐性は中間程度であるが、肥料濃度が濃いと吸水が阻害され、特に苦土の吸収が影響を受ける。
・カルシウムの吸収阻害が起こると、果実側面に黒褐色の陥没した斑点が出たり、尻腐れ症状が発生する。
・マグネシウムは果実収穫最盛期に吸収量が多く、欠乏すると葉脈間が黄化し、ひどい場合は落葉する。
・マグネシウム欠乏の場合は、0.5~1%の硫酸マグネシウムの葉面散布を行う。
・新規ハウスではFTE等で矯正する。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・ピーマンは肥料の吸収力が高く多肥に対する耐性が強いため、施肥による失敗が少ない。
・基肥に速効性窒素を多く施用するよりも、30~40日間の肥効を示す緩効性の肥料(油かすを含む)と肥効期間の長い被覆肥料の組み合わせが効果的である。
・基肥は肥効の長持ちする緩効性のものを使用し、追肥は回数を多くして後半肥料切れさせないようにコンスタントに効かせるようにする。
・10a当たりの施肥量は良質の堆肥2~3t、石灰100~150kgの他に窒素30~35kg、リン酸25~30kg 、カリ25~30kgが一応の目安と考えてよい。
・このうち、リン酸の全量と窒素、カリの50~60%を基肥とし、残りを追肥として施す。
2) 施肥設計(例)
区分 | 肥料名 | 施用量 (kg/10a) |
窒素 | リン酸 | カリ | 苦土 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
基肥 | 有機5号E | 120 | 9.6 | 20.4 | 12.0 | 2.4 | ・追肥分をあらかじめロング肥料で施用しておく ・実際の追肥は草勢を見ながら液肥で補う |
エコロング250(100日) | 40 | 8.0 | 2.0 | 4.0 | |||
エコロング250(140日) | 40 | 8.0 | 2.0 | 4.0 | |||
合計 | 200 | 25.6 | 24.4 | 20.0 | 2.4 |
4.定植準備
(1) 畝立て、マルチ
・ほ場は、定植予定の10日前までに施肥、整地し高畝を作る。
・定植予定の7日前にはかん水チューブ、マルチ、トンネルを設置してかん水を行い、土壌水分を確保するとともに地温を18℃(最低15℃以上)に高めておく。
・土壌水分は土を握ると固まり、指で突くと2つに割れる程度が適湿状態である。
(2) 栽植密度
・栽植密度は、ベッド幅90cmの1条植え、通路幅40cm、株間50cm、畝高30 cmでおよそ10a当たり1,500株程度となる。
5.定植
(1) 苗の状態
・1番花の開花2~3日前が定植の適期である。
・この時期の定植が、最も栄養生長と生殖生長のバランスがとりやすく、その後の生育が順調に進む。
・若苗定植は初期着果不良になり易いので注意する。
・ポリ鉢には定植当日の早朝に十分かん水しておく。
(2) 定植の方法
・2日ほど晴天が続いた午前中に定植する。
・曇天続きで適期に定植できない場合は、短期間であれば摘蕾と液肥の施用を行い、天候の回復を待つ。
・あらかじめ、アブラムシ防除のための粒剤を植穴処理しておく。
・苗運搬、植付け時には根鉢を壊さないように丁寧に取り扱う。
・深植えにならないように注意し、地表面スレスレから株元が少し盛り上がった状態にするとその後の生育がよくなる。
・植え付け後はすぐに支柱を立てて茎をひもで結びつける。
6.管理作業
(1) 温度管理
・定植後活着するまでの5~7日間は、日中やや高めの温度(27~30℃)を保ち、活着後は25℃前後まで下げて徒長を抑える。
・夜温・地温確保のためトンネル被覆を夕方早めに行い、活着を促進させる。
・天候が順調となり、ハウス内の夜間温度が15℃以上確保できる時期(5月下旬頃)になったらトンネルを除去する。
・温度管理は午前中は30℃、午後は25℃、夜温の最低温度は15℃以上を確保するようにハウスの開閉管理を行う。
・なお、曇天時の日中は低めの温度管理を行い、呼吸による養分消費を抑える。
(2) かん水管理
・定植後活着までに土壌水分が不足気味の時は、地温よりやや高い温水を株元かん水する。
・生育初期には地温の低下を防ぎ根張りを良くするため、少量かん水とする。
・定植後1ヶ月頃より要水量が大きくなるため、徐々にかん水量を増やす。
・高温期には果実肥大、尻腐れ防止のためにかん水量を増やし、かん水間隔も短く(最低2日に1回)する。
・畝の上はいつも湿っている状態がよく、白っぽく乾いていたり、反対に水がたまっていると生育が悪くなる。
・曇雨天時や地温15℃以下の時はかん水を控え、晴天時の午前中にかん水する。
・土壌の高温乾燥が続くと尻腐れ果の発生が多くなるので、乾燥防止と地温の上昇を防ぐために敷きわらをすることは有効な対策である。
・生育後半はハウス内湿度が高まり病害が発生しやすくなるためかん水量を減らし、早朝に葉水がのっている時にはかん水を控える。
・土壌水分が少ないと変形果ができやすく、さらに乾燥すると落花が多くなり生長点は芯止まり状態で着果周期の幅が大きくなる。
・逆に、過湿になると日照の強い日中は下葉がしおれ、そのしおれが夜間に回復するような生育を繰り返し、やがては枯死する。
・また、曇雨天、地温15℃以下のとき多かん水すると、根腐れを起こしやすいので注意が必要である。
(3) 換気の管理
・定植後の温度の低い時期には冷たい風が直接ピーマンの当たらないように、風下の換気を中心に行う。
・果実肥大促進のため午前中は温度・湿度を高めにし、午後からは換気して湿度を下げる。
・外気温が15℃以上ある時期には、徒長防止のために夜間も裾ビニールを上げて換気を行う。
(4) 仕立てと整枝
1) 仕立て
・主枝の1番花が咲くまでは、各節から生じるわき芽は早めに摘み取る。
・主枝と1番花の節からわき芽を伸ばし、主枝の2番花の節から出るわき芽とわき芽の1番花の節から出るわき芽の4本を主枝とする。
・なお、3本仕立ての場合は、主枝2番花の節から生じたわき芽と側枝1番花の節から生じたわき芽のうち、又割れに近いわき芽を3本目とする。
2) 誘引
・最初のうちは、各枝が細く誘引の為に紐をかけると枝への負担が大きくて成長を阻害するので、枝がある程度成長してから誘引作業を行う。
・ただし、吊り上げが遅れて枝が開きすぎると、生殖生長に傾き生長が鈍るので注意が必要である。
3) 整枝
① 摘花(果)
・まず、1番花、2番花、側枝1番花は、摘花(果)する。
・4本仕立てにした後の各主枝の1節目に着く果実は摘花(果)し、2節目に着く果実も基本的には摘花(果)する。
・わき芽も除去する。
② 各主枝の整枝方法
・それぞれの主枝の3節は摘芯する。
・4節目からは、各節毎に発生する側枝に外側は2~3果程度、内側は1~2果程度着果させる。
・整枝する時に枝に優劣がついている場合は、強い方を取り、弱い方を残す。
・整枝のタイミングは、除去する枝の長さが手のひら一杯(15cm程度)になったときに(少し混み気味で)行う。
・整枝をする場合、全部を一度には取らないで、少なくとも2回に分けて行う。
・また、はさみで切って取ると軸が残り、曇天時に灰色かび病が出るので、手で折る。
・このとき、内側に折ると簡単に折れ、折れないときは反対側に折るとよい。
・収穫が終わったら1節を残して切り返し剪定するとすぐに新芽が出てふたたび着果する。
・生育が進むと混みあった枝、重なった枝、ふところ枝、徒長枝などは除き、主枝と主枝の間隔を保って株の中央に空間ができるように整枝する。
・上方が茂れば茂るほど下の方に光が入らず、下の方の芽の動きが悪くなる。
・9月上旬が最終の整枝時期となる。
(5) 草勢判断
・主枝の節間長は5~6cmが標準で、生長点から3節目下の節間が急に伸びるときは徒長傾向で、4cm以下の時は生育不良である。
・側枝が分枝節位から立って発生する場合は、徒長の兆候である。
・草勢が弱ってくると生長点付近の節間が短くなり、葉が小さく弱々しくなり、花が生長点近くで咲き、雌しべが雄しべより短くなる。
・果実は尻尖り果や肥大不良果が多くなり、秀品率が低下する。
・このような兆候が見えたらできるだけ早く追肥、かん水、摘果などを行って草勢回復に努める。
・草勢のコントロールは、草勢が強い場合は誘引の糸を緩めて枝を寝かせ、多着果や肥料不足などで草勢が弱まれば糸を張って枝を立てるようにする。
(6) 追肥
・追肥は1番果の収穫開始ころから行い、粒状肥料の場合10a当たり窒素とカリを成分量で2~3kgを10~14日間隔で、液肥の場合は窒素とカリを成分量で1~1.5kgを5~7日間隔で施用する。
・基肥にロング肥料を使用する場合は基本的に追肥は必要ないが、草勢が弱った場合に適宜追肥する。
・追肥の量や施肥間隔は草勢を見ながら、弱ければこまめに強ければ間隔を空けて調整し、安定した草勢を維持する。
・追肥は、①葉色が薄くなり、下葉が黄変してきた時(肥料切れ)、②開花している花の位置が先端(生長点)に近くなり、樹の上方に花の白い色が目立つ時(栄養生長が停滞し、生殖生長が勝っている)、③短花柱花(めしべが短い花)が多い時(生育が停滞している)などを目安に行う。
・過度の追肥は根を傷めたり、尻腐れ果等の生理障害の発生を助長するので注意する。
・また、追肥が遅れた時は葉面散布剤を併用すると効果的である。
・なお、葉面散布剤を使用するときの注意点は、①葉の裏側に十分かかるように散布する、②午前中の散布を基本とし、朝露の残っているときや日中の高温時の散布は避ける、③樹勢の低下が激しいときは、3~4日おきに2~3回散布する、などである。
・日照不足の時に窒素濃度を高めすぎると、果実の肥大性が低下する。
(7) その他の栽培技術
1) 敷きわら
・雑草と乾燥防止のため、土が隠れる程度に敷きわらを行う。
7.主な病害虫と生理障害
・ピーマンは害虫の被害が多く病害は比較的発生しにくい作物であるが、生育環境(温度、湿度、樹勢の強弱)によっては被害が大きくなるので、薬剤散布のみではなく、耕種的防除を心がける。
・ハウス周辺の雑草は害虫の寄生場所になり、ここから害虫が移動・侵入するので、周辺雑草の刈り取り・枯死を徹底する。
・害虫は発生初期の防除が重要なので、随時ピーマンの花や葉裏を観察し、害虫の発生を認めたら直ちに防除を実施する。
・ハウス内の湿度を上げないために換気を十分に行い、防除は可能であれば煙霧機やくん煙剤を使用する。
・葉の表面が早く乾くように、また薬剤の効果を上げるためにも適宜整枝を行い、過繁茂にしない。
・窒素過多により病害発生を助長する場合があるので、適切な肥培管理を行う。
(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、青枯病、うどんこ病、疫病、黄化えそ病、菌核病、灰色かび病、半身萎ちょう病、斑点細菌病、斑点病、へた腐れ病、モザイク病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、アブラムシ類、オンシツコナジラミ、タバコガ、チャノホコリダニ、ハダニ、ミカンキイロアザミウマ、ヨトウガなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、石果、黒あざ果、尻腐れ果、着色果、長果、日焼け果、変形果などである。
8.収穫
(1) 収穫適期
・適期の判定は栽培時期や果実の大きさにもよるが、一般的に開花後30~40日で収穫適期に達する。
(2) 収穫方法
・低温期や乾燥条件では、果皮の硬いものや、着色果が混入しやすいので注意する。
・また、夏期は40g以上で収穫すると、尻腐れや着果負担がかかりやすくなるので注意する。
・なお、ピーマンは10℃、湿度80%条件で15日以上の貯蔵が可能である。
9.後片づけ
・収穫終了後、土壌病害回避のためできるだけきれいに残渣を抜き取り処分する。
・ハウスビニールは速やかに除去し、土壌をできる限り降雨に当てて余分な肥料を流亡させるようにする。
・耕盤層が形成されていたり、排水不良なほ場は、サブソイラ等で耕盤の破砕を実施するなどして排水改善対策を講ずる。
・完熟堆肥を4t/10a程度施用し、すき込み後土壌分析を行い、翌年の施肥の参考にする。