サヤインゲンの栽培

Ⅰ.サヤインゲンの概要

1.サヤインゲンの導入

(1) 栽培面での特徴
・青果用サヤイングンの場合、雨天時の収穫作業や病害の抑制、品質向上などの面からハウス雨よけ栽培が望ましく、収量の安定化、莢への泥はね防止などからいずれの作型においてもマルチ栽培が原則となる。
・栽培面でのポイントは、野菜の中ではイチゴと並んで最も根の酸素要求量が多い作物であることから、ほ場の排水性を良くし、耕土の深い、ぼう軟な土壌を作ることと、水分要求量が多くなる着莢後のかん水の実施である。
(2) 経営面での特徴
・青果用サヤイングンの栽培は収穫から選別、箱詰めまでの出荷作業にかかる労力が大きく、生産者の高齢化に伴って出荷量の減少が大きな問題となってきている。
・需要に対して供給量が足りないため、価格も比較的高値安定で堅調な動きとなっている。
・一方で、近年は海外産冷凍野菜の残留農薬問題の影響もあって、北海道を中心に冷凍加工用のサヤイングン栽培が増加傾向にある。
・加工用の栽培では、露地栽培で機械による一斉収穫を行うことから、倒伏しにくく、莢の太りがなるべく斉一に揃う品種が求められる。
・青果用サヤイングンの栽培は、収穫調製作業に多くの労働力が必要なため、労働力にあわせた栽培面積とし、作型を組み合わせて必要な労働力を分散化する。
・また、毎日収穫しなければ品質の良いものが収穫できないので、継続的に作業のできる体制が必要となる。

2.来歴

・インゲンマメの原産地は、中央アメリカからメキシコで、栽培の起源は古く、メキシコでは紀元前4000年の栽培記録が残されているとされている。
・16世紀にコロンブスの新大陸発見によってヨーロッパに伝わり、イタリア人がサヤインゲンとして若いさやを食べ始め、主にチリ島や南イタリアからヨーロッパ全域に広がっていった。
・中国へは、本草網目(1578年)記載によれば、16世紀後半に伝わり、華中、華北で多く栽培された。
・日本へは,ヨーロッパから中国を経由し,明国(中国)福建省の僧侶、隠元禅師(いんげんぜんじ)によって1654年に導入された(フジマメを持ち込んだという説もある:この場合、インゲンマメの伝来は約50年後となる)といわれている。
・現在栽培されている多くの品種のもとは、明治初年以降、改めて欧米から導入されたもので、最近は、若莢を利用するサヤインゲンの品種改良が進んでいる。

3.分類と形態的特性

(1) 分類
・マメ科インゲンマメ属の一年草である。
(2) 根
・インゲンの根は酸素の要求度が高く、酸性土壌の影響や肥料濃度の影響を受けやすい。
(3) 葉
・葉の大きさは、過湿気味に経過すると大きく、乾燥気味に経過すると小さくなる。
(4) 花器
・インゲンは、節ごとに花が咲くので、節間を短く育てると花数が多くなり、節間が長いと花数が少なくなる。

4.生育上の外的条件

(1) 温度
・インゲンの生育適温は、15~25℃で20℃前後が最も生育がよい。
・最低気温が10℃以下になると花芽や花蕾の発育が抑制、開花が制限されて莢の着生、肥大が不良となる。
・30℃以上の高温では落花、落莢が多くなる。
・根群発達の最適地温は20~25℃程度であり、最低地温は8℃必要である。
(2) 水分
・湿害を受けると根腐れや下葉の落葉を起こし、株の寿命を短くさせる。
(3) 土壌
・インゲンの根は酸素の要求度が高く湿害に弱いので、排水良好な耕土の深い土壌が適する。
・土壌の適応性は比較的広く、土質はあまり選ばない。

5.品種

・北海道で作られているサヤインゲンの主な品種は次のとおりである。
(1) ピテナ(雪印)
・冷涼地での春まき夏どり栽培(ハウス、露地)に適するつるなしの中生種。
・高温などのストレスで起きる曲がり莢の発生が極めて少ない。
・長期収穫、一斉収穫ともに着英数はやや少なめだが、秀品率が高い。
・草姿はおとなしくコンパクトだが、主茎が太くしっかりしており、倒伏や分枝の折損に強い傾向がある。
・莢の形質はやや短めで揃う丸莢品種で、莢の肥大が緩慢なため一斉収穫でも莢の形状が揃う。
・莢色はやや濃く、退色も遅い。
(2)大平莢尺五寸(原育種園)
・平莢で長いつるありの早生いんげん豆。
・草勢は強く豊産性で暑さに強い。
・莢色は淡緑で、収穫が遅れて大きくなっても、すじが入らず柔かい。

6.作型

・北海道での主な作型は次のとおりである。
(1) ハウス半促成
・3月中旬は種、4月中旬定植、6月中旬~7月中旬収穫
(2) 露地(移植)
・4月中旬~4月下旬は種、5月中旬~5月下旬定植、7月上旬~8月中旬収穫
(3) 露地(直播)
・6月上旬~7月中旬は種、8月上旬~9月下旬収穫
(4) ハウス抑制
・7月中旬は種、8月上旬定植、9月中旬~10月下旬収穫

Ⅱ.サヤインゲンの栽培技術

1.育苗

(1) 施設・資材の準備
・ハウスは保温の面から大きい方が有利で、間口6.3m以上のハウスが望ましい。
・ハウスパイプより15cm程度内側に建て、2重ハウスにするとよい。
(2) 育苗容器
・9~10.5cmポリポットを使用する。
(3) 種まき
・播種床に畦幅5cm×株間3cm程度に播種して初生葉展開期まで育て、9~10.5cmポリポットに鉢上げするか、または、直接ポリポットに播種する。
・どちらの場合もあらかじめ地温を20~25℃に高めておき、直接ポリポットに播種する場合は1穴に3粒播種する。
(4) 発芽
・発芽するまではやや高めの温度管理とする。
(5) 移植までの管理
・発芽後は温度を下げて光線を十分に当て、軸の伸びすぎや徒長を防止する。
・かん水をする場合は、地温を下げないよう温かい水をかける。
(6) 移植(鉢上げ)
・播種床に播種した場合、初生葉展開期(播種後10日頃)に9~10.5cmポリポットに移植する。
・直接ポリポットに播種した場合は、2本立ちとする。
(7) 定植までの管理
・本葉が展開したら、鉢ずらしを行なう。
・光線を十分に当て日中25℃、夜間12~15℃まで徐々に下げ、やや乾燥ぎみに管理し、根張りの良い健苗を育成する。
・9cmポリポットで本葉1.5葉期、10.5cmポリポットで本葉2葉期程度まで育苗する。

2.畑の準備

(1) 適土壌と基盤の整備
・根の酸素要求量が特に多いので、ほ場の排水性を良くし、心土破砕や深耕を行って根が深く張れるようにしておく。
(2) pHの矯正と土壌改良
・インゲンは土壌の酸性には弱く、pH 6.0~6.5を目標に矯正する。
(3) 堆肥の施用
・通気性を良くするために完熟堆肥を10a当たり3t以上、前年の秋(少なくとも作付予定の1か月以上前まで)に施用する。
(4) 輪作
・土壌病害に弱い作物なので、4年以上の輪作を基本とする。

3.施肥

(1) 肥料の吸収特性
1) 窒素
・窒素は分枝を促進し開花、着莢数を増加させること、他の豆類に比べて根粒菌の着生時期が遅く増加が緩慢であること、つる性種は生育期間が長く栄養生長と生殖生長が並行して行われることなどから、基肥にも窒素をある程度多用する方がよい。
・窒素過多では葉色が濃緑となる。
・窒素が不足すると葉色が淡緑で茎が細くなり、側枝の伸びが悪く、落蕾、落莢が多くなる。
2) リン酸
・リン酸は吸収量自体は少ないが、特に火山灰土では不可欠で、全量を基肥で施用する。
3) カリ
・カリは生育初期から吸収量が多く、着莢後は葉で同化されたデンプンを莢に移行させる機能がある。
4) その他の要素
・インゲンは苦土欠乏の影響を受けやすい作物とされる。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・節間を短く育て花数を多くするため、基肥を少なめにし、つるボケしないようにする。
・生育日数が長いので、緩効性肥料などを用いて、途中の肥切れを防止する。
・有機質肥料を使用する場合は、タネバエ対策を実施する。
・矮性種はつる性種の3~4割減肥する。
・施肥量は草勢により量を調整し、一般に種子の色が黒色種では窒素肥料を多くし、茶種、白色種の順に減じる。
2) 施肥設計(例)
ハウス移植

 区分 肥料名 施用量(kg/10a) 窒素 リン酸 カリ 苦土 備考
基肥 S009E 80 8.0 16.0 7.2 2.4 ・追肥を行う場合は、開花最盛期と1回目収穫終了前とする
合計 80 8.0 16.0 7.2 2,4

 

4.定植

(1) 定植準備
1) 畝立て、マルチ
・定植の2~3日前に畝立て、マルチ、かん水を行い、地温を高めておく。
・畝の高さは15cm程度の高畝とする。
2) 栽植密度
・畝幅120cm×株間40~50cm程度とする。
(2) 定植
1) 苗の状態
・9cmポリポットで本葉1.5葉期、10.5cmポリポットで本葉2葉期に本畑へ定植する。

5.管理作業

(1) 温度管理
・ハウス内の温度管理は日中25℃、夜間15℃を目安にし、30℃以上、10℃以下にならないように注意する。
(2) かん水管理
・定植後は活着するまで、マルチ穴にかん水する。
・生育前半は、徒長や過繁茂を防ぐためやや控えめのかん水とするが、着莢後は水分要求量が多くなるので、排水性の確保や換気などに注意しながら十分量かん水(少量多かん水)する。
(3) 仕立てと整枝
・つる性種は、本葉3枚が展開する頃からつる化してくるので、支柱を立ててネットを張り誘引する。
・主づるがネットの頂部まで伸びた時点で摘心し、下位節からの側枝の発生を促す。
(4) 摘葉
・茎葉が過繁茂になると側枝の発生や着莢率が低下する。
・老葉や病葉を除去し、株全体に光線を当てることによって草勢を維持でき、長期間高品質の若莢を収穫することが可能となる。
(5) 追肥
・追肥のタイミングは開花始め、開花最盛期、1回目収穫が終わる頃などで、樹勢や莢色を見て行う。
・肥料以外の要因で樹勢が低下している場合、収穫を一時休止して不良莢を除去することによって樹勢を回復させることができる。

6.主な病害虫と生理障害

(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、かさ枯病、角斑病、菌核病、さび病、炭疽病、つる枯病、根腐病、灰色かび病、モザイク病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、アザミウマ類、アズキノメイガ(フキノメイガ) 、インゲンマメゾウムシ、タネバエ、ハダニ類、マメコガネなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、苦土欠乏症、曲がり莢、落花、落莢などである。

7.収穫

(1) 収穫適期
・開花後15~20日頃の若莢(長さ10~12cm)を初期は1日おき、盛期には毎日収穫する。
・収穫が遅れて莢の中の豆を肥大させると、新たな花芽の分化を徐々に止め、実に養分を転流させて子孫を残そうとするため花が咲かなくなってしまう。
(2) 収穫方法
・収穫が始まったらできる限り若どりをし、収穫遅れの莢は必ず取り除く。
・収穫作業は午前中の涼しい時間帯に行い、収穫後は速やかに涼しい場所へ移動して調製作業を行う。