ナガイモの栽培

Ⅰ.ナガイモの概要

1.ナガイモの導入

(1) 栽培面での特徴
・栽培面でのポイントは、優良種子の入手と分施体系による窒素とカリの適切な供給である。
(2) 経営面での特徴
・ナガイモの労働時間は、10a当たり約120時間で、この大半が収穫作業に占められている。
・一人当たりの栽培可能面積は約100aで、機械化を図ることにより150a程度まで増やすことができる。
(3) 生育の概要
・萌芽期から離乳期までは、つるや吸収根の伸長は種芋の貯蔵養分に依存する(従属栄養期)。
・離乳期を過ぎると吸収根からの養分吸収が活発になり(独立栄養期)、主枝の伸長や側枝の増加が急速になり8月下旬~9月中旬にピークに達する。
・新イモの伸長と肥大は7月中旬から始まり、8月上旬頃からは急速に進み9月下旬頃まで続く。

2.来歴

・ナガイモやイチョウイモ、ツクネイモ(これらは、植物学的にはいずれも「ナガイモ」という一つの種である)は、中国の雲南地方が原産といわれている。
・紀元前2,000年には、すでに薬用として使用されていたという記録が残っている。
・紀元前3世紀には栽培され、やがて台湾、朝鮮半島、日本へと伝えられたとされる。
・日本へ入ってきたのは、中国原産の植物であること、当時の植物の知識は遣唐使にしたがって中国大陸に渡った留学生または帰化人によってもたらされたものであったこと、「やまいも」という食物が主として貴族の間で貴重品として食用に供されていたことなどから、平安時代と考えられているが、渡来時期がわかる資料はない。
・ツクネイモの名前が最初に登場したのは「清良記」(1654年頃?)といわれ、和爾雅(1688年)には、山薬(ヤマノイモ)は野山薬(自然薯)と区別されており、農業全書(1697年)には「ツクネイモ」の作り方が解説されている。

3.分類と形態的特性

(1) 分類
・ヤマノイモ科ヤマノイモ属の多年草である。
(2) 根
・ナガイモは主茎の基部から7~10本の養分吸収根を発生させ、縦方向より横方向に旺盛な伸長を示し、表層10~20cmまでに集中して分布する。
・根数は萌芽初期に決定し、主づる伸長終わり頃には、横に60~80cm程度伸びる。
・肥大根は根と茎の中間的性質を有し、担根体と呼ばれる。
(3) 茎
・つるの葉腋に着生する肥大体はむかごと呼ばれ、繁殖用に用いられる。
・むかごの着生は採種用の子いも生産では少なく、青果用の成いも生産で多い。
・むかごは、20節以上に着生することが多い。
(4) 葉
・8月下旬頃までのイモの肥大は、主枝の葉数や葉重に大きく影響を受けるが、それ以降は側枝の葉数や葉重の影響が大きくなる。
・20節以下の下位側枝重量とイモ重には高い相関関係があり、同化生産の主体は下位側枝にある。
(5) 花器
・花は乳白色で総状花序に着生し、8月中~下旬に開花するが結実しない。

4.生育上の外的条件

(1) 温度
・ナガイモは比較的低温性であるが、萌芽時に降霜があると茎葉が黄変し枯死してしまう。
・新生いもも茎葉と同様寒さに弱く、0℃以下の低温で凍害を受ける。
(2) 土壌
・ナガイモは、耕土が深くて排水のよい土壌が望ましい。
・形状が良いナガイモを作る場合は、砂土あるいは火山灰土など軽しょうな土壌が適する。

5.品種

(1) 系統選抜
・ナガイモの品種については区別がつきにくく、系統の形状や長さの差異は主に土壌条件によるとされている。
・ナガイモは、ほとんどが雄株で交配育種が難しく、品種育成は系統選抜が中心となる。
・形状は変異が大きく、形状の良いいもでも数年間放置しておくと容易に悪化するので、常に優良個体を選抜、増殖するよう心掛ける。
(2) 主要品種(系統)
・北海道で作られているナガイモの主な品種(系統)は次のとおりである。
1) 十勝選抜
・不定芽の形成は良好で、草勢が強く、いもの形状は長紡錘型の選抜系統である。
2) 十勝4号
・音更選抜系統から生まれた突然変異系統である。
・いも径が太く、平均一本重が重い。
・茎葉黄変期は音更選抜系統より3日程度早い。
3) きたねばり
・ヤマノイモえそモザイク病に強く、短根で高粘度である。
・いもの全長は音更選抜系統より10cm程度短く、いも径は2cm程度太い。
・不定芽の形成がやや劣るため、通常のナガイモより1週間程度催芽期間を長くする。

6.作型

・北海道においては、収穫を秋に行うか春にも行うかの違いがあるだけで、作型は1つである。
(1) 露地
・4月下旬~5月上旬催芽開始、5月中旬~5月下旬定植、11月上旬~11月中旬(秋堀り)3月下旬~4月下旬(春堀り)収穫

Ⅱ.ナガイモの栽培技術

1.畑の準備

(1) 適土壌と基盤の整備
・耕土が深くて排水のよい土壌が望ましく、そのような土壌環境に近づける土づくりに努める。
(2) pHの矯正と土壌改良
・土壌酸度はpH6.0~6.5、有効態リン酸は30~50mg/100gを改良目標として土壌改良資材を投入する。
・特に火山灰質土壌でリン酸吸収係数の高いほ場では、リン酸が不足しがちになるので土壌分析値に基づきリン酸資材の投入を行う。
(3) 堆肥の施用
・堆肥は、10a当たり3tを目安に、前年の秋に施用してロータリで混和しておく。
(4) 耕起
・ナガイモの耕起は、トレンチャー耕とし、溝幅は15~20cmで、深さは100~110cmの深耕とする。
・植付け直前の耕起は、生育中の耕土の沈降によりつるが切損したり奇形いもが発生したりするので、植付けの2週間前までに行う。
・トレンチャー耕にはチェーン式とホイール式がある。
・チェーン式は作業速度がやや遅く、爪の交換等維持コストがやや多くかかるが、表層から深層まで均一な耕土となる。
・ホイール式は土質によっては、深層部に向かうに従って硬くなる場合がある。
・ホイール式を使用する際はエンジン、PTOとも定格回転で作業し、走行速度は1時間当たり600m以下とする。

2.施肥

(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・植付けから約60日間は、種いもの養分に依存しており、土壌からの養分吸収は多くない。
・その後、土壌からの養分吸収が急激に行われ、全養分吸収量の80%が生育後半に吸収される。
2) 窒素
・青森県の成績では基肥を窒素成分で20kg、追肥を窒素成分で7kgずつ3回施肥した場合、収穫期における植物体窒素吸収量のうち約4割が土壌窒素から、約6割が施肥窒素から吸収されており、施肥窒素の利用率が高かった。
・収穫物の窒素含量が多くなると、乾物率が低下しねばりが小さくなりやすい。
3) カリ
・カリの追肥は、堆肥の施用が少なく土壌中の置換性カリが少ない畑では、1回当たりの追肥量を窒素より多目とする。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・作条施用は奇形いもの原因となるので、基肥は全面散布しロータリで混合する。
・分施は、8月15日頃までには終わらせる。
・北海道では、総窒素量を15kgとした場合、基肥を5kgとして前半の生育を確保し、後半の生育と窒素吸収量を確保する目的で残り10kgを7月中に分施するのがよい。
・作業性を考慮すると、分施は支柱を立てる前に行う事例が多い。
・10a当たり施肥量は、元肥が窒素5~8kg、リン酸25~30kg、カリ5~8kgで、総量が窒素20~23kg、リン酸25~30kg、カリ20~23kg程度である。
2) 施肥設計(例)

 区分 肥料名 施用量
(kg/10a)
窒素 リン酸 カリ 苦土 備考
基肥 CDUS269 90 10.8 14.4 8.1 5.4 ・追肥分をあらかじめロング肥料で施用しておく
エコロング413(100日) 60 8.4 6.6 7.8
合計 150 19.2 21.0 15.9 5.4

 

3.植え付け

(1) 種イモの種類
・種イモの種類は、むかご、子イモ(1年子、2年子)、切イモがある。
・切イモは種いもの大きさを揃えやすいが、切口からの腐敗や不発芽の心配がある。
・子イモは発芽も早く腐敗や不発芽はないが、種イモとして利用できるまで養成期間(1~2年間程度)が必要で、種イモとしての大きさも揃いにくい。
(2) 種イモの大きさと必要量
・種イモの大きさは、子イモでは100~150g、切イモでは120~200g程度がよく、10a当たり400~600kg程度必要となる。
(3) 子イモの場合
・100g以下の子イモ(1年子)の場合は、頂芽を付けて植え付けると総収量が多くなる。
・ただし、萌芽が早くなるので、支柱・ネット張りは早めに行う。
・種イモの形状は形の良いものを選び、先が細く尖った細長いイモは使用しない。
(4) 切イモの場合
・イモを切断する前に必ず種子消毒を行う。
・消毒が終わった種イモは、風通しの良い場所で1~2日、風乾する。
・風乾後、切断作業を行う。
・種イモ切断時の大きさは青果用120~150g、増殖用40~50gを目安とするが、首部は小さめ胴部は大きめとする。
・晴天日に種イモを切断し、消石灰を切口に塗布して腐敗を防止する。
・首部、胴部、尻部を別々に分け、切り口どうしが触れないようにコンテナに詰める。
・キュアリングは直射日光を避け、乾燥条件で20℃・10日間程度行い、切り口のコルク化を図る。
・キュアリングの終わった種イモは、貯蔵庫等に3~4段積み重ね、濡れムシロやコモなどをかけ、さらに古ビニールで完全に被覆して温度20~25℃、湿度70~80%を保つ。
・催芽中は5~7日おきに上下を積み替え、温度や湿度の均一化を図る。
・積算温度が首部で180℃、胴・尻部で330℃程度で、催芽の大きさが大豆粒大(6~7mm)となる。
・胴・尻部は、植え付け予定の15~20日前、首部は10日前頃から催芽を始める。
(5) 植え付け時期
・地温が低いと萌芽が遅れたり、種イモが腐敗するので、地温10℃以上で植え付ける。
・植付け適期は5月下旬~6月上旬で、遅くとも6月10日までに終了する。
・子イモ(1年子)を使用する場合は、頂芽付きでこれよりやや早めに植え付けする。
(6) 植え付けの深さと方法
・植え付けの深さは12cm前後とするが、植付け後すみやかに6cm程度覆土する。
・2~3週間後に、さらに6cm程度培土する。
・芽の大きさが同程度で複数の場合は、1芽だけを残し他の芽をつぶして植える。
・種イモの切断部位によって生育が異なるので、部位別に分けて植える。
・芽の位置は常にトレンチャー溝の中央にくるようにし、芽が斜め下になるように植える。
(7) 栽植密度
・畦幅110~120cm、株間21~24cm程度、10a当たり株数で4,000株程度とする。
・株間が広いといも重は重くなるが総収量は少なくなり、株間が狭くなるといもの肥大は劣るが総収量は多くなる。
・使用する種子が小さい場合や植付時期が遅れる場合は、株間を27cm程度に広げる。
・1列1条ネット栽培法は収量性に優れ、2条植えは収穫労働面で優れる。

4.管理作業

(1) 支柱立て
・パイプ支柱の場合は、4株に1本の割合で立てる。
・ネットには正目と菱目があり、正目の方が収量が優り、ウイルス病株の判別がしやすい。
・つるが、40~50cmに伸びたら支柱に誘引する。
・一つの種イモから複数のつるが出ている場合、生育の良いものを1本残して、他のつるは土の中で芽を折るようにして芽かきをする。
・ネットの場合は追い挿しができないので、つるに余裕を持たせて誘引する。
(2) 追肥(分施)
・1回目の追肥は、いも長が10~15cmの時期(7月中~下旬頃)とする。
・その後は、茎葉繁茂の状態を見て、10日間隔で合計3回以内で行う。
・追肥量は窒素、カリとも1回10a当たり5kgを基準とするが、生育が旺盛な場合には追肥の時期、回数、量などを調整する。
・基肥に対して追肥の割合を高めた方が多収の傾向が見られ、追肥回数も多い方が多収となりやすい。
・カリの追肥はイモの固形分や粘度などの品質を高める効果があり、窒素の1.5倍程度施用するのがよい。

5.主な病害虫と生理障害

(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、青かび病、えそモザイク病、褐色腐敗病、褐斑根腐病、根腐病、葉渋病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、アブラムシ類、カンザワハダニ、キタネグサレセンチュウ、キタネコブセンチュウなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、岐根イモ(こぶイモ)、ひび割れ(リング)、平イモ、複数いも(多本下がり)、扁平イモ、曲がりイモなどである。

6.収穫

(1) 収穫適期
・収穫の適期は茎葉が黄変枯凋し、地下部の表皮が硬化して先端の尻部が丸みを持ち、先端の色が胴部と同じ色になる時期である。
・早掘りをした場合、ポリフェノールの酸化によって切断面の褐変が起こる。
・ポリフェノールは、イモの成熟とともに少なくなる。
(2) 収穫方法
・収穫の7~10日前に、地際より7~10cm残して(収穫時の目安となる)つるを切り、地下部のイモの完熟化を図る。
・掘取り時は、折れや傷が付かないように丁寧に取り扱う。
・収穫後は3℃前後、湿度80~90%で貯蔵する。
・新生イモの褐変は、収穫後5℃以下の低温で7日以上貯蔵すると発生しづらくなる。
・春掘りは、土壌凍結の少ない畑で茎葉を畦の上にかぶせ、ベタガケ等を使って地下部の凍結を防ぐ。
・掘取りは4月中~下旬に行うが、日中の高温によるナガイモ内部の品温上昇に注意する。