ミツバの栽培

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Ⅰ.ミツバの概要

1.ミツバの導入

(1) 栽培面での特徴
・栽培面でのポイントは、乾燥に非常に弱い作物なので、発芽から収穫まで適切なかん水を心がけることである。
(2) 経営面での特徴
・ミツバは、日本料理には欠かせない野菜であるが、全国的には栽培面積、収穫量ともやや減少傾向のみられる野菜である。

2.来歴

・ミツバの原産地は日本や中国、朝鮮半島などで、野生種は古くから食用されていたようである。
・日本での栽培の記録は江戸時代になってからで、「農業全書(1697年)」では栽培法や簡単な食べ方が記載されている。
・栽培が本格化したのは、享保年間(1716~1735年)に東京葛飾区の水元町で始まり、これが後の軟化ミツバ(切ミツバ・根ミツバ)に発展し、同じく葛飾区の下千葉町で始まったミツバ栽培は糸ミツバ(青ミツバ)の元となり、その後産地は千葉県、神奈川県、埼玉県へ移り、明治30年代以降に関西へ普及したようである。
・現在の大型ハウスを利用した養液栽培は、昭和40年代半ばに浜松市で行われたのが始まりとされている。

3.分類と形態的特性

(1) 分類
・セリ科ミツバ属の一年草である。
(2) 花芽分化と抽苔
・花芽分化は、本葉3枚頃の株が15℃以下の低温に一定期間遭遇すると起こり、その後の高温、長日条件によって抽苔する。
・早く播種しすぎると、低温遭遇により抽台率が高くなる。
・抽台すると根株の充実が悪く、収量、品質が低下する。

4.生育上の外的条件

(1) 温度
・高温、乾燥には弱く、比較的冷涼な気候を好む。
・発芽適温は15~20℃、生育適温は15~22℃で、25℃以上や5℃以下では、生育が劣る。
(2) 水分
・乾燥には非常に弱い作物で、水分環境を良好に保つことが極めて重要である。
(3) 光
・ミツバの光飽和点は2万ルクス程度である。
・種子は、好光性である。
・半日陰地でも生育できるが、充実した株を生育させるためには日あたりのよい畑が適する。
(4) 土壌
・乾燥には非常に弱いので保水性のよい土壌が適しているが、排水性もよくないと病害の発生が多くなる。
・酸性土壌には弱い野菜で、好適土壌pHは6.0~6.5である。

5.品種

(1) ミツバの種類
1) 切りミツバ
・最も品質が良い栽培方法で、軟白ミツバとして正月を中心に出荷されている。
・道内では6月中~下旬に播種し、株を養成するために 10 月下旬~11月上旬に掘り上げてビニールハウスに伏せ込んで加温し、12月下旬~3月中旬に株ごと収穫する。
・伏せ込み時に、土やもみ殻を盛って茎を白くさせる。
2) 根ミツバ
・前年の6月中旬~7月中旬に播種し、株養成後にビニールハウスなどの床に伏せ込みし加温する。
・草丈が20~25cmになった段階で根ごと収穫するか、または、草丈20~25cmのものを根を残して刈り取り、残った根に土寄せをし3月上旬から加温しながら養成し、食べられる大きさになったときに株ごと収穫する方法がある。
3) 青ミツバ(糸ミツバ)
・生育期間が短く、露地栽培で播種後70~90日頃、生育中に抽苔する前に収穫する。
・周年栽培が可能で、低温期ではトンネル栽培、高温期では遮光栽培を行う。
・密植栽培によってやや軟白化させて、根元から切り取るか根をつけたまま収穫する。
(2) 主要品種
・ミツバは古くから山菜として利用されており、栽培歴が短く、品種はほとんど分化していない。
・北海道で作られているミツバの主な品種は、次のとおりである。
1) 柳川2号(柳川採種研究会)
・晩抽性なので安心して春まきができ、あらゆる栽培型に適応可能である。
・発芽が良好で感温性が大きいので、加温軟化栽培に適する。
・葉型、生育ともよく揃い、伏せ込みや土寄せ後の芽立ちが斉一で収量が多い。
・風味や香りが高く、市場性が良好である。
2) 増森白茎(トキタ種苗)
・埼玉県東南部の増森地方原産の純系白茎みつばの改良品種である。
・晩抽性で春まきでも安心して栽培ができ、切みつば、根みつば、青みつば(土耕)のいずれの栽培にも適する。
・葉は濃緑色で大きく、初期より生育が旺盛で、伏せ込みや土寄せ後の萌芽も斉一で多収である。
・茎は純白で光沢があり、商品価値が高い。

6.作型

・北海道での主な作型は次のとおりである。
(1) 切りミツバ
・6月上旬~6月下旬は種、10月下旬~11月上旬根株堀取、12月下旬~3月上旬収穫
(2) 根ミツバ(ハウス・越冬)
・6月下旬~7月上旬は種、1月下旬~2月中旬保温開始、3月下旬~5月下旬収穫
(3) 青ミツバ(雨よけ)
・3月下旬~7月上旬は種、5月中旬~10月中旬収穫

Ⅱ.ミツバの栽培技術

1.畑の準備

(1) 適土壌と基盤の整備
・保水性がよく、排水性もよい土壌が適する。
(2) pHの矯正と土壌改良
・酸性土壌には弱い野菜なので、土壌pHが6.0~6.5になるように矯正する。
(3) 堆肥の施用
・排水性、保水性を良くするために、完熟堆肥を積極的に投入し、団粒構造の発達を促すことが大事である。

2.施肥

(1) 肥料の吸収特性
1) 窒素
・窒素が多すぎると軟弱・徒長になり、生育が遅れ株の充実が悪くなり、抽台にもつながるので注意が必要である。
2) カリ
・カリが過剰であると、切り口が褐変しやすい。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・10a当たり窒素15kg、リン酸20kg、カリ15kg程度とする。
・青ミツバは、切りミツバや根ミツバに比べて施肥量を多くして生育を早める。
2) 施肥設計(例)

 区分 肥料名 施用量(kg/10a) 窒素 リン酸 カリ 苦土 備考
基肥 S999ETK 170 15.3 15.3 15.3 0.0
合計 170 15.3 15.3 15.3 0.0

 

3.播種

(1) 時期
・早まきすると抽苔しやすくなり、茎葉の生長が止まるので、播種適期を守る。
(2) は種方法
・種子量はa当たり、切りミツバの場合800~1,000ml、根ミツバの場合、100~500ml、青ミツバの場合1,200~1,600ml程度である。
・太い茎が好まれる根ミツバは、粗植にして株を充実させる。
・5月中~6月上旬に播種すると、ふつう10~14日くらいで発芽する。
・タネは好光性なのでタネが隠れる程度に薄く土をかけ、発芽まで水やりを十分に行う。
・発芽の時期は特に乾燥に弱く、水が切れてしまうと芽が出ないので十分注意する。
(3) 栽植密度
・発芽率があまり高くないので、やや多めにタネを播く。
・列と列の間隔は30cm空け、タネ同士が重ならないように1cm間隔でまく。

4.管理作業

(1) かん水
・芽出しを行うと、播種後の乾燥に弱くなるので行わない。
・発芽がそろうまでこまめに少量ずつかん水し、土が乾燥しないようにする。
・発芽揃い後、土の表面が乾いたらかん水するようにする。
・その後も、乾燥すると生育が劣り収量、品質に影響が出るので、収穫までかん水に心がける。
(2) 間引き
・切りミツバや根ミツバは、混み合っているところを1~1.5cm間隔になるように間引く。
・青ミツバは、子葉が重ならない程度に間引くだけにし、密植ぎみにして柔らかく育てる。
(3) 中耕・除草・培土
・切りミツバは8月中~下旬に1回、根ミツバは8月中~下旬と盛り土前の2回、中耕する。
・ミツバは、初期生育が緩慢なので間引きのときに除草も同時に行い、初期の除草は手取りで丁寧に行う。
(4) 遮光
・青ミツバの場合、夏の高温多照のときは寒冷紗で遮光し、乾燥と温度上昇を防止し、品質と鮮度をよくする。
(5) 追肥
・本葉が3~4枚頃に1回目の追肥を行い、それ以降は2週間に1回間隔で追肥する。
・追肥に液肥を用いる場合は、1週間に1回の間隔で与える。
・青ミツバの場合、追肥は原則として不要であるが、本葉2~3枚のときから生育状態をみて葉色が淡い場合に行う。
(6) 軟化
・根ミツバの場合、1回目は冬に地上部が枯れたら枯れ葉を取り除き、5cm程度盛り土する。
・2回目は3月上~中旬頃、新芽が出始める前に10~15cm程度盛り土する。
・青ミツバの場合、草丈が10cm程度に伸びたら1cmの厚さに土を寄せて株もとを軟白する。
・土寄せ後十分にかん水する。
・切りミツバの軟化では、通常、根が充実する10月下旬ころに根株を掘り取り、軟化床に伏せ込む。

5.主な病害虫と生理障害

・セリ科野菜のなかでは、比較的病虫害が少ない野菜である。
(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、ウイルス病、菌核病、さび病、立枯病、べと病、変形菌病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、カメムシ類、ヒメフタテンヨコバイ、ヨトウガなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、根株腐敗症などである。

6.収穫

(1) 収穫方法
・切りミツバの場合、根株の5mmほど上から茎を切り取る。
・根ミツバの場合、茎を切らないようにして根株ごと掘り取り、根部を5cmほどつけて残りは切り取る。
・青ミツバの場合、通常、鮮度を長く維持できる根つきで収穫する。
・青ミツバで刈り取りする場合、地ぎわから3cmくらい残して刈り取ると、約1カ月で再び収穫を迎えるようになり、道南地域や秋が暖かい年は2~3回収穫できる。