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Ⅰ.シュンギクの概要
1.シュンギクの導入
(1) 栽培面での特徴
・市場で評価されるポイントは“外観のよさ”である。
・栽培面でのポイントは、pHの矯正を適正に行い、夏期の抽苔と芯腐れ症を回避する肥培管理を行うことである。
(2) 経営面での特徴
・シュンギクは独特な香りのため、消費者の好みはまちまちで、葉物野菜の中では嗜好的要素が強い。
2.来歴
・シュンギクの原産地は、トルコやギリシャなどヨーロッパ南部の地中海沿岸といわれている。
・ただし、ヨーロッパでは主に観賞用として用いられ、野菜として最初に利用し始めたのは中国で、アジアで品種改良がすすみ独特の風味を楽しむ食材となっている。
・日本へは、中国を経由して室町時代までには伝わっていたようである。
・文献で最初に春菊が登場するのは、15世紀後半の「尺素往来(せきそおうらい)」で、「お湯殿の上の日記(1563年)」には春菊の別名である「高麗菊」(こうらいきく)と「しゆんきく」の2つの名前が記されている。
・当時は、観賞用として用いられたが、間もなく食用に利用されるようになったらしく、江戸時代の農書「農業全書」や「菜譜」には栽培方法が記載されている。
・なお、現在でも食用としているのは日本や中国、東南アジアなど一部の地域だけのようである。
3.分類と形態的特性
(1) 分類
・キク科シュンギク属の一年草である。
(2) 種子
・種子は成熟当時から2か月程度休眠する。
・発芽の有効年限は2~3年で、一般に発芽率は25~40%と低い。
(3) 根
・根は播種後30~40日で幅50~60cm、深さ30cm程度まで分布し、吸肥力は強い。
(4) 葉
・葉の大きさによって小葉種、中葉種、大葉種に分類されている。
(5) 花芽分化
・抽苔は高温・長日で促進される。
・株どりでは栽培期間が短いので問題は少ないが、長期の摘み取りでは晩抽性品種を選ぶ。
4.生育上の外的条件
(1) 温度
・生育適温は15~20℃であるが、特に寒さには強い。
・ただし、高温には弱く、28℃以上になると生育が停止してしまう。
(2) 光
・種子は好光性である。
(3) 土壌
・シュンギクは土壌に対する適応性は広いが、保水性や排水性に富む中粗粒質の土壌が最も適する。
5.品種
(1) 分類
・シュンギクには葉の切れ込みが少なく主に関西で栽培される大葉種と、葉の切れ込みが深く主に関東で栽培される中葉種がある。
・大葉種は大株に育ったものを株ごと引き抜いて収穫し、中葉種は摘み取り収穫が主流である。
(2) 主要品種
・北海道で作られているシュンギクの主な品種は次のとおりである。
1) さとあきら(サカタ)
・トンネル・ハウスの摘みとり栽培に適する早生の中葉種。
・草勢が強く、初期より生育早く、収量が多い。
・葉色は濃緑で照りがある。
・べと病に強く、石灰欠乏症が出にくい。
2) なべ奉行(渡辺採種場)
・夏~秋どり栽培に適する中葉系の品種。
・葉色が濃く、葉肉厚く、栽培の後半まで草姿が安定する。
・低温期でも生育旺盛、比較的晩抽で高温期でもボリュームが出やすい。
6.作型
・北海道での主な作型は次のとおりである。
(1) 抜き取り作型
1) 早春まきハウス
・2月上旬~3月上旬は種、4月中旬~5月上旬収穫
2) 春まきトンネル
・3月中旬~4月下旬は種、5月中旬~6月上旬収穫
3) 夏まき
・5月中旬~8月下旬は種、6月中旬~10月中旬収穫
4) 秋まきトンネル
・8月下旬~9月中旬は種、10月中旬~11月中旬収穫
(2) 摘み取り作型
1) 早春まきハウス
・2月上旬~2月中旬は種、3月上旬~3月中旬定植、3月下旬~6月下旬収穫
2) 抑制ハウス
・7月上旬~7月下旬は種、7月下旬~8月中旬定植、8月中旬~12月上旬収穫
Ⅱ.シュンギクの栽培技術
1.畑の準備
(1) 適土壌と基盤の整備
・土壌の適応範囲は広い方であるが、水持ちが良く、水はけの良い土壌が望ましい。
(2) pHの矯正と土壌改良
・中性に近い、弱酸性を好む。
・シュンギクは中性~微アルカリ性の土壌でも明らかな生理障害が発生しないことから、最適pHは他の野菜より高いと考えられるが、高くなった土壌のpHを下げるのは難しいことや輪作体系を考慮すると、pHは6.5程度を目標に矯正するのがよい。
(3) 輪作
・一度、栽培したところでは、少なくとも1年は栽培しないようにする。
2.施肥
(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・生育期間が短く、後期に生育が旺盛になることから、養分吸収も生育の中期以降急激に増加する。
2) 窒素
・シュンギクは他の軟弱野菜に比べて、窒素とカリの吸収量が多い特徴がある。
・土壌中の硝酸態窒素残存量が5~7mg/100g程度あれば、夏期栽培では無窒素栽培も可能である。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・シュンギクは生育期間が短いことから、基本的には基肥重点の施肥とするが、前作の残効の影響が大きい場合は基肥を減らし生育状況を見て追肥を行う対応を取る。
・基肥は有機質肥料主体に行い、追肥は窒素を中心とした速効性の肥料を用いる。
2) 施肥設計(例)
抜き取り
区分 | 肥料名 | 施用量(kg/10a) | 窒素 | リン酸 | カリ | 苦土 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
基肥 | NS228号 | 120 | 14.4 | 14,4 | 9.6 | 1.2 | |
合計 | 120 | 14.4 | 14.4 | 9.8 | 1.2 |
摘み取り
区分 | 肥料名 | 施用量 (kg/10a) |
窒素 | リン酸 | カリ | 苦土 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
基肥 | S708E | 200 | 14.0 | 20.0 | 16.0 | 6.0 | ・追肥は3回程度に分けて行う |
追肥 | S444 | 70 | 9.8 | 2,8 | 9.8 | 3.5 | |
合計 | 270 | 23.8 | 22.8 | 25.8 | 9.5 |
3.播種、育苗
(1) は種方法
・抜き取り作型は直播、摘み取り作型は移植とする。
・抜き取り作型は畝幅20cmで条まきする。
・種子は好光性なので、覆土はごく薄く掛ける。
(2) 育苗
・摘み取り作型では、育苗日数20~30日、本葉3枚程度で定植する。
(3) 栽植密度
・栽植密度は、畝幅20cm×株間15cm程度を標準とする。
4.管理作業
(1) かん水管理
・鮮度保持を行うため、収穫10~20日前から土壌中の水分量を極力少なくする栽培法がとられている。
(2) 温度管理
・寒冷期は、最低気温3℃以上を確保する。
(3) 間引き(抜き取り作型)
・本葉が1~2枚のころに、3cmくらいの間隔に間引く。
・本葉が4~5枚のころに、さらに間引いて株間を12~15cmに広げる。
(4) 追肥(摘み取り作型)
・収穫が始まると、次々とわき芽が育ってくるので、肥料切れさせないよう追肥する。
5.主な病害虫と生理障害
(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、黒斑病、さび病、炭疽病、葉枯病、べと病、モザイク病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、アザミウマ類、アブラムシ類、ハモグリバエ類、ホコリダニ類、ヨトウガなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、チップバーン、芯枯れ症などである。
6.収穫
(1) 収穫方法
・摘みとり作型の場合、23~24cm程度の長さになったら下葉を4~5枚残し、主枝の先端を収穫する。
・摘芯後、葉のつけ根から伸びたわき芽が15cm程度になったら本葉を1枚残して収穫する。
・このようにして摘み取った所から新しいわき芽を伸長させて、やわらかい葉を繰り返し収穫する。
・抜き取り作型の場合は、草丈が20cmくらいになったら株ごと引き抜くか、枝を折りとって収穫する。
・春まきの場合は抽苔が早いので、草丈が15cmくらいになったら収穫する。