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Ⅰ.トマトの概要
1.トマトの導入
(1) 栽培面での特徴
・栽培面でのポイントは、栄養生長と生殖生長のバランスを取ることで、第3花房開花期までは栄養生長を抑える管理をし、その後は養水分の吸収を適度に制御して着果や肥大を促進することである。
(2) 経営面での特徴
・全国の作付面積は徐々に減少しつつあり、近年の輸入量は増加傾向にある。
2.来歴
・ペルー、ボリビア、チリ北部にかかるアンデス高地が原産地とされ、アンデス高原には8~9種類の野生種トマトが自生していることがわかっている。
・いずれも現在のミニトマトに近い形で、たくさんの小さな実をつけたチェリータイプトマトである。
・この野生種トマトは、人間や鳥によってメキシコに運ばれ、栽培され食用になったと考えられている。
・中でも「ピンピネリフォリウム」は、糖度が高く、熟すと真っ赤になる野生のトマトで、これらを人間や鳥、獣が好んで食べ、種を排泄し、その種が発芽し、再び実を結ぶというサイクルを繰り返し少しずつ分布を広げていき、やがてメキシコで食用として栽培されるようになったのである。
・1492年のコロンブスによる新大陸発見以降、大勢のスペイン人が続々と新大陸に押し寄せ、その戦利品のひとつとしてトマトを持ち帰り、ヨーロッパに広めたと考えられている。
・トマトに出会った最初のヨーロッパ人は、1521年にアステカ文明を征服したエルナン・コルテスという説が有力である。
・16世紀にヨーロッパへ伝わったトマトが、ヨーロッパで食べられるようになったのは18世紀になってからのことといわれている。
・ヨーロッパに持ち込まれてから200年もの間、食用として受け入れられなかった理由は、強烈な匂いやあまりに鮮やかな赤い色への抵抗感、さらにナス科の植物には麻酔作用や幻覚作用のある植物が多かったことから、トマトも有毒植物であると信じられていたからである。
・一説によるとヨーロッパでトマトをはじめて栽培し食用としたイタリア人は、飢饉のためしかたがなくトマトを食べたといわれているほどである。
・栽培トマトの発祥地メキシコに隣接しながら、アメリカにトマトが伝わったのは、ヨーロッパに遅れること200年あまり経過してからで、当時バージニア州知事だったトーマス・ジェファーソン(後の第3代大統領)が、1781年に自宅の庭で栽培を始めたという記録が残っている。
・実際に、農産物市場に並ぶほど本格的に栽培されだしたのは19世紀なかばになってからのことである。
・一方、日本へ渡ってきたのは17世紀頃で、江戸時代の絵師である狩野探幽が寛文8年(1668年)にトマト(唐なすび)を描いている。
・文献でもっとも古いものは、江戸前期の儒学者・貝原益軒の『大和本草』(1709年)で、「唐ガキ」と紹介されている。
・ただし当時はまだ観賞用で、食用として最初に栽培に着手したのが、カゴメの創業者である蟹江一太郎で、兵役を終えて帰郷した翌1899(明治32)年の春のことである。
・蟹江は、愛知県知多郡荒尾村(現在の東海市荒尾町)の自宅脇に、さまざまな西洋野菜を栽培したが、トマトだけは生食では独特の青くささと真っ赤な色が敬遠され、全く売れなかったことから、加工を思い付き、舶来のトマトソースを手本に独自のトマトソースの開発に乗り出すことになった。
・その後、1903(明治36)年に第1号のトマトソース(現在のトマトピューレー)が完成、5年後の1908年には、トマトケチャップとウスターソースの製造が開始された。
・本格的栽培は昭和に入ってからで、戦前日本ではアメリカ系の品種、桃色系の大果種「ポンテローザ」などが全盛の品種であった。
・民間で日本名の入った地方品種の育成もあり、この「ポンテローザ」を利用して東京では「世界一」、千葉県では「栗原」が育成され、新潟県では「三仏生(さんぶしょう)」トマトがその例である。
・また、一代交配種の育成も種苗会社で行われ、「福寿2号」の交配は昭和10年代初期に行われた。
・1994年5月、FDA(連邦食品医薬品局)が承認したFlavr Savrというトマトは、米国で最初に認可を受けた遺伝子組み換え作物で、長期間の保存に適した品種であった。
・ただし、開発費用などを回収するために通常のトマトよりも高い価格に設定されたため、商業的にはそれほどの成功を収めなかった。
3.分類と形態的特性
(1) 分類
・ナス科ナス属の多年生植物である。
(2) 根
・根群の深さは100~150㎝(50㎝までは細根が多い)、根群の幅は250~300㎝に達し、吸肥力は強く肥料の利用効率が高い。
・トマトの根は、酸素の要求度が大きく、水分の要求も大きい。
・したがって、トマトは根圏域がどのくらい確保できるかにより、収量・品質が大きく変化する。
・根が地表部に多く分布する浅根性品種は、肥料や水を吸う根が地表部にたくさんあるので、定植時の活着がスムーズに進むことや、初期草勢が旺盛になりやすく、土壌や肥料に対して吸収がよい利点がある。
・一方で、根域が地表に近いと気温の変化を受けやすく、真夏や真冬に生育が緩慢になったり、収穫最盛期に入るとスタミナ切れを起こしたりするなどの欠点が出やすくなる。
(3) 茎
・肥料分が十分あると、生育初期から旺盛に生育し茎葉がよく繁茂する。
(4) 葉
・第1花芽の上は90度左に1葉が出て、2葉は反対の180度対の位置から発生し、3葉は逆の90度右にできる。
・第2花芽は3葉の180 度反対の位置となる。
・第2花芽の上は90度右から1葉が出て、2葉はその180度反対の位置から発生し右回りとなる。
・花房下3葉目を境に、右回り・左回りと交互に繰り返しながら、上位花房が形成されていく。
・温度、環境などにより、右回り・左回りも変則することがある。
・各葉位の1葉当たりの光合成量は、花房周辺の葉について見ると各花房とも花房直下葉で多く、花房直上葉は仮軸分枝を支える葉で特異的に葉面積が小さいため、光合成量は少ない。
(5) 花芽分化と花器
・花芽分化は、は種後からの積算気温が関係し、第1花房の分化には600℃(は種後30日、本葉2.0~2.5枚)、第2花房900℃(同40日)、第3花房1,150℃(同50日)程度必要である。
・第1花房の開花は、は種後60日程度である。
・花芽分化は、温度は低い方が、光線は多い方が、培土の窒素は多い方が早く行われる。
・他の作物は窒素が少ない方が早く花芽ができるが、トマトは逆である。
・通常25℃以上の高温になるとトマトは花粉の出が悪くなり、花粉そのものも障害をきたし、あるいは花が咲き難くなることなどから着果が悪くなる。
・花房と花房の間は原則3葉であるが、草勢があまりにも強い時などは4葉となることもあり、その上位段では2葉となることもある。
・側枝は、5枚葉が出てからでないと花芽はつかないが、その上は、主枝同様3枚ごとに花芽がついていく。
・ミニトマトの芯止まり性品種は、第1花房と第2花房の間に葉が1枚か2枚しかない。(ミニ)
(6) 果実
・開花後4~5日頃から子房が肥大し、開花後50~60日程度で着色し、成熟する。
・トマトの成熟には日数よりもむしろ毎日の気温の累積が重要であり、それは800~1,000℃とみられている。
・普通型トマトの場合、第1果房以後、3葉ごとに果房をつける。
・葉と果房の位置は約90度ずつずれているので、果実はほぼ同じ方向につくことになる。
4.生育上の外的条件
(1) 温度
・トマトの発芽適温は25~30℃である。
・生育適温は、日中20~25℃、夜間10~15℃、最高限界温度35℃、最低限界温度5℃である。
・適地温は、15~18℃で他のナス科作物やキュウリなどより2~3℃低い。
・最高限界地温は25℃、最低限界地温は13℃である。
・果実の発育適温は、日中24~26℃、夜間13~17℃で、リコビンの着色適温は20~25℃である。
・開花結実期以降は30℃以上の高温で落花が増加する。
(2) 水分
・果実の肥大には水分が安定して供給されること(PF2程度)が必要である。
(3) 光
・トマトの光飽和点は7万ルクス程度である。
・トマトは、日光が大好きな光好性作物で、日照が少ないと生育が悪くなり、特に花器の異常が目立って落花が多くなり、結実しても異常果となりやすい。
(4) 土壌
・適pHは6.0~6.8(最適pH6.5)、EC上限は0.8~1.5である。
・有効土層が深く排水、保水性のある土壌が理想である。
5.品種
・北海道で作られているトマトの主な品種は次のとおりである。
(1) CFハウス桃太郎(タキイ)
・熟期は極早生で、通常の品種に比べて7段収穫期で1段程度早く着色が進む。
・特に低温期にその差が顕著に表れる。
・葉はやや小さめで採光性がよく、冬場の少日照期にも生育が安定している。
・また栽培後半までスタミナが持続しやすいことから、作型幅が広く栽培しやすい。
・果色は美しい桃色で、果実全体が均一に着色する。
・低温期でも糖度が上がりやすく、食味がよい。
・葉かび病のレースに安定した耐病性(Cf9)を示すほか、トマトモザイクウイルス(Tm‐2a型)、萎凋病レース1、半身萎凋病、斑点病、サツマイモネコブ線虫に複合耐病虫性をもつ。
・肥大性は中であるが、低温・日照条件が悪い加温促成作型では、定植後の草勢が確保できないと、低段花房で小玉・チャック果が出やすい。
(2) 桃太郎8(タキイ)
・熟期は早生で、スタミナがあり、節間も短いため長期どりの作型に向く。
・1花房当たり平均5~7花が着生し、果重は210~220g程度で果実の肥大性も良い。
・果形は豊円で秀品率が高く、果色は濃桃色、多肉質でかたく日もち性がよく、食味にすぐれた夏秋栽培用完熟品種である。
・トマトモザイクウイルス(Tm-2a型)、萎凋病レース1(F1)およびレース2(F2)、半身萎凋病(V)、斑点病(LS)、サツマイモネコブ線虫(N)に複合耐病虫性のほか、青枯病(B)にも比較的強い。
・肥効にやや敏感で、草勢が強くなりすぎると、異常茎やチャック果等の異常果が発生しやすい。
・低段花房は低温時では、花粉の粘性が低い。
・このため着果不良であると樹勢が強くなり過ぎるので、マルハナバチやホルモン処理等で確実に着果させるようにする。
・また、初期からかん水を行うと4段果房までは大玉となるが、5段果房以降は極端に小玉になりやすい傾向がある。
(3) 桃太郎ギフト(タキイ)
・熟期は早生で、初期の草勢はややおとなしく、中~後期は旺盛となる。
・節間長は中短で、葉は中小葉、夏秋雨よけ栽培に最適なほか、ハウス抑制栽培にも適する。
・低温に対して敏感でチャック・窓あき果の発生がやや多いので、育苗時は極端な低温管理を避ける。
・低温期の着果性がやや劣るので1~2段花房は必ずホルモン処理で着果させる。
・茎葉が濃緑で少し硬めに生育するので、かん水量はやや多めとする。
・追肥は1回当たりの追肥量を少なくしてこまめに補うことが望ましい。
・果形は豊円の多肉質で、子室数は平均7.5室、甘みと酸味が適度にあり優れた食味をもつ。
・果色は濃桃色で美しく、硬さ・店もち性も良好で、市場性が高い。
・葉かび病(Cf9)、トマトモザイクウイルス(Tm-2a型)、萎凋病レース1(F1)およびレース2(F2)、半身萎凋病(V)、斑点病(LS)、サツマイモネコブ線虫(N)に複合耐病虫性のほか、青枯病(B)にも「桃太郎8」並みの耐病性をもつ。
(4) りんか409(サカタ)
・熟期は早生で、草勢は初期にはやや強く、中~後半は中程度である。
・節間が短いので収穫段数(花房数)を多くでき、従来品種よりも落花が少なく、ホルモン処理効果も高いことから着果率が高い特長を持つ。
・下段より果実の肥大力があり、空洞果やすじ腐れ果の発生が少なく、秀品率が高い。
・果実は豊円腰高で果色・色まわりよく、硬玉で日持ち性がある。
・食味は肉質よく、高糖度でコクもある。
・葉かび病(Cf9)、トマトモザイクウイルス(Tm-2a型)、萎凋病レース1(F:R-1,2)、半身萎凋病(V)、斑点病(LS)、サツマイモネコブ線虫(N)に複合耐病虫性を持っている。
・草勢が中程度でスタミナはあるが、着果性がよく、果実の肥大もよいので、適切な摘果をするなど草勢の維持がポイントとなる。
(5) CF桃太郎ファイト(タキイ)
・初期の草勢がややおとなしいが、根張りがよく、栽培後半までスタミナが持続する。
・節間長はやや短く、小葉で過繁茂になりにくい。
・中段での玉伸びがよく、4~5段目の段とびが少なく、着果性に優れる。
・果形は腰高、スムーズで秀品率が高く、適度な硬さがあり、糖度も高い。
・果重は約210gの大玉で果ぞろいもよい。
・葉かび病(Cf9)、トマトモザイクウイルス(Tm-2a型)、萎凋病レース1(F1)およびレース2(F2)、根腐萎凋病(J3)、半身萎凋病(V)、斑点病(LS)、サツマイモネコブ線虫(N)に複合耐病虫性のほか、青枯病(B)に対しても中程度の耐病性をもつ。
・初期の草勢がおとなしく、じっくりと生育が進むので、やや早めのタイミングで薄めの肥料を多回数追肥することで、栽培中盤からの根張りと栽培後半までスタミナを持続させる。
・葉色が濃く、少しかための草姿をしているので、栽培全期間を通じてやや多めのかん水とする。
(6) 麗夏(サカタ)
・草勢はやや強く、栽培の後半までスタミナがあり、着果性がよく、下段より果実の肥大力がある。
・チャック果、窓あき果、空洞果、すじ腐れ果の発生が少なく、果実肩部の日焼けによる黄化も少ない。
・果実は豊円で果色・色まわりにすぐれ、硬玉で肉質よく、日もち性が大変優れている。
・裂果の発生が非常に少なく、赤熟収穫が可能である。
・葉かび病(Cf9)、トマトモザイクウイルス(Tm-2a型)、萎凋病レース1(F:R-1,2)、半身萎凋病(V)、斑点病(LS)、サツマイモネコブ線虫(N)に複合耐病虫性を持っており、葉先枯れが少ないため灰色かび病に比較的強い。
・草勢が強い品種のため、栽培前半はややしめづくりとする。
・とくに1~3段は必ず着果させ、樹勢の安定をはかる。
・草勢が強くなりすぎると、花落ちが大きくなり、乱形果も多くなる。
・促成、半促成栽培などの作型は葉が繁りやすく、果実がやや小さくなるので注意する。
6.作型
・北海道における主な作型は次のとおりである。
(1) 促成
・12月中旬~1月下旬は種、2月中旬~3月下旬定植、4月中旬~8月上旬収穫
(2) 半促成
・1月下旬~2月上旬は種、3月下旬~4月上旬定植、5月下旬~9月上旬収穫
(3) 半促成長期どり
・2月中旬~2月下旬は種、4月中旬~4月下旬定植、6月上旬~10月下旬収穫
(4) ハウス夏秋どり
・3月上旬~4月上旬は種、5月上旬~6月上旬定植、7月上旬~11月上旬収穫
(5) 露地
・3月下旬~4月上旬は種、5月下旬~6月上旬定植、7月下旬~10月上旬収穫
(6) ハウス抑制
・5月中旬~5月下旬は種、7月上旬~7月中旬定植、8月下旬~12月上旬収穫
Ⅱ.トマトの栽培技術
1.育苗
(1) 施設・資材の準備
・保温と根切れ防止のため育苗床の下にモミガラを入れ、その上にビニール(通水のための穴のあいたもの)や遮根シートなどを敷く。
・ハウスの被覆ビニールは汚れていると保温性が劣るばかりでなく、光線不足となり花の形質を悪くするので注意する。
・ハウス内にすきま風が入り込まないようにし、特にハウスサイドは白寒冷秒や防風網等を設置する。
・仮植後はハウス内育苗とする。
・通常1ハウスに2m幅(ポット9個置き)2列の育苗床を作るので50mのハウスで約3,000鉢の育苗が可能となる。
・最終ずらし面積は、1株当たり30cm間隔として、本畑10a当たり2,100株の場合、実面積で約198㎡(60坪)必要となる。
(2) 育苗容器・育苗土
・床土は、無病で通気性・保水性のよいものをpH6.0~6.5、EC0.8以下に調整した土か、市販の野菜育苗培土を用いる。
・育苗容器は128または200穴セルトレイを利用する。
・発芽むら等を考慮し、セルトレイは予定鉢数の2割程度多めに準備する。
(3) 播種~鉢上げ
・1セルに1粒づつ播種し、軽く覆土する。
・その後、セルの下穴から水が出る程度にかん水する。
・発芽適温の25~30℃を保ち、発芽が揃うまでは表面が乾いたら覆土が湿る程度のかん水とする。
・発芽が揃ったら、かん水を一時中断し、子葉が捻じれるまで乾燥させる。
・出芽後は昼間25℃以下、夜間13℃以上の温度を守る。
・発芽後、20日くらいで本葉2枚程度となり、鉢上げの時期となる。
・播種~鉢上げまでの期間は、セルの表面が乾燥する前に適宜かん水を行う。
(4) 移植(鉢上げ)
・は種後20日程度育苗したら、12~15cmポリポットに鉢上げを行う。
・育苗ポットには、あらかじめ土を入れておき、仮植2日前に十分かん水し、ポリフィルム等を掛けて地温を高めておく。
・植え付けは、子葉の下1cm程度の浅植えとする。
・植え付け後十分にかん水し、ビニール等でトンネル被覆して保温と保湿を行ない、活着を早める。
・強い光の場合は寒冷紗等で遮光し、しおれを防ぐ。
(5) 鉢のずらし
・1回目は、葉が重なってきたら行ない、2回目は重なり合う前に行なう。
・ずらしが遅れると1~2日で徒長してしまうので、絶対遅れないようにする。
・ずらしは3回以上行なうようにし、最終的に30cm間隔にする。
(6) 温度管理
・鉢上げ後(播種後25~30日以降)からは、常に花芽分化が行なわれているので、急激な温度変化や最高・最低気温に注意する。
・本葉3枚までは絶対に12℃以下にしない。
・その後はチャック果、キズ果防止のため、最低気温10℃以上を守る。
・ハウスは午後、気温が20℃に下がりきらないうちに閉める。
(7) かん水管理
・しおれは、花の質の低下や障害果の発生にもつながるので、しおれさせないようにかん水する。
・かん水は、早朝から9時頃までに行ない、地温低下を防ぐために温湯水を使用する。
・頭上からのかん水は苗の曲りや生育不揃い等の原因となるので、培土に直接かん水する。
・育苗後半は乾燥が激しく、少量のかん水では鉢の下部がいつも乾燥状態となり、根が老化しやすい。
・水を控えるのは日射量が少ないときだけとし、すくすく育てる。
(8) 葉面散布
・育苗中に十分に根鉢をつくり、栄養生長と生殖生長のバランスをとって定植するために、ヨーヒB5などの葉面散布剤を4葉ころから 5日おきに 2回ぐらい、かん水を兼ねて葉面散布するとよい。
(9) 病害虫対策
・ハウス内の湿度が高まると葉かび病が、温度が高くなると害虫が発生するので、換気を十分に図るとともに、予防散布に努める。
2.畑の準備
(1) 畑の選定
・通気性、排水性、保水性等の物理性が良好で肥沃な場所を選ぶ。
・過湿に弱いので、地下水位が60~70cm以下のところがよい。
(2) pH
・pH6.5を目標に酸度矯正を行う。
(3) 畝立て、マルチ
・幅90~120cm、高さ10~20cmのベッドを造成し2条植えする。
・一般的には、マルチ栽培すると浅根となりやすいので、マルチは低温期や乾燥しやすい土壌での栽培に限定することが望ましい。
・地温上昇を目的とする場合は透明マルチを、雑草の繁茂する圃場では白黒ダブルマルチやシルバーマルチが良く、両方の効果が期待できるものにグリーンマルチがある。
・マルチングは土壌湿度を見ながら行ない、乾燥しすぎの場合はかん水後行なう。
(4) 栽植密度
・3.3㎡当たり7~8本位(株間45~50cm程度)とする。
・ミニトマトは、茎や葉がやや小振りなものが多いので、株間は35~40cm程度と狭くする。(ミニ)
・芯止まり性の品種はこれよりもさらに株間を狭くする。(ミニ)
3.施肥
(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・トマトは肥料に対する反応が鈍い。
・5~6葉の若苗を定植する場合は、基肥は表層に20~30%、深さ25cm以上の深層に70~80%施用するのがよい。
2) 窒素
・窒素については、特に第一果房の肥大期からの吸収が顕著である。
・窒素多施用は葉中の石灰濃度を低下させ、さらに糖含量を減少させ、尻腐れ果や窓あき果の原因となる。
3) リン酸
・リン酸の吸収量は、窒素の20~30%だが、定植時から吸収させることが必要である。
4) カリ
・カリは窒素の倍近く吸収されるが、過剰施用は石灰・苦土欠乏を起こしやすい。
・すじ腐れ果は、カリの欠乏で起こりやすい。
5) 微量要素
・窓あき果は、微量要素欠乏で起こりやすい。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・基肥は肥効の長持ちする緩効性のものを使用し、追肥は回数を多くし、後半肥料切れさせないようにする。
・総窒素20kgとし、基肥10kg、追肥分10kgとする。
・追肥分をロング肥料とし、実際の追肥は液肥で草勢をみながら行う。
・ミニトマトは、普通トマトよりも施肥による失敗が少なく、空洞果の発生する恐れが少ないので、高収量を得るためにやや強めの草勢を維持していく。(ミニ)
2) 施肥設計(例)
ハウス夏秋どり
区分 | 肥料名 | 施用量 (kg/10a) |
窒素 | リン酸 | カリ | 苦土 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
基肥 | S009E | 100 | 10.0 | 20.0 | 9.0 | 3.0 | ・追肥分をあらかじめロング肥料で施用しておく ・実際の追肥は草勢を見ながら液肥で補う |
エコロング413(100日) | 35 | 4.9 | 3.9 | 4.6 | |||
エコロング413(140日) | 35 | 4.9 | 3.9 | 4.6 | |||
合計 | 170 | 19.8 | 27.7 | 18.1 | 3.0 |
ミニトマト(ハウス長期どり)
区分 | 肥料名 | 施用量 (kg/10a) |
窒素 | リン酸 | カリ | 苦土 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
基肥 | S009E | 120 | 12.0 | 24.0 | 10.8 | 3.6 | ・追肥分をあらかじめロング肥料で施用しておく ・実際の追肥は草勢を見ながら液肥で補う |
エコロング413(140日) | 100 | 14.0 | 11.0 | 13.0 | |||
合計 | 220 | 26.0 | 35.0 | 23.8 | 3.6 |
4.定植
(1) 時期
・定植は晴天日に行い、気温の下がる午後3時頃までには作業を終了させる。
・定植適期の苗は、草丈30~35cm、茎の太さ7~8mm、1段花房が1~2花開花した頃である。
(2) 定植方法
・地温は18℃以上、地下10~15cmの地温が15℃以上を確保し定植する。
・植え付け2~3時間前に、薄めの液肥をポリ鉢全体に十分いきわたるように、たっぷりかん水する。
・極端な浅植え、深植えは活着不良の原因になるので、鉢土の表面が軽く隠れる深さとし、鉢と植穴に隙間ができないようにする。
・定植苗の向きは第一花房を通路側に向けて定植する。
・植穴には、アブラムシ予防のために植穴に粒剤を施用するが、その他の対象害虫に応じて薬剤を選定する。
5.管理作業
(1) かん水
・花芽分化時の水分不足は、花数や子室数の減少、チャック、窓あき果の増加を引き起こし、開花中の不足は、受精不良による落花、落蕾、花粉形成不良による落花、空洞果を引き起こす。
・一方、過剰なかん水は、生長点の萎れ、空洞果、葉先枯れの誘因となる。
・高温期におけるトマトの生育制御は、施肥でなくかん水量の多少で行う。
1) 第3段花房開花始めまで
・活着をスムーズにさせ生育を揃えることが、その後の生育や管理に大きく影響する。
・定植後5~6日以上経過しても早朝に葉露がつかない株は、株元に1株当たり0.2~0.5㍑手かん水をする。
・その時に葉色が淡い場合は、液肥をかん水と兼ねて行う。
・定植10日目にも再度、葉露の状態を確認し同じ対応を取る。
・この時期は、根の伸長が早く生育が旺盛で肥料や水分を過剰に吸収しやすいので、できるだけかん水を控え、根を深く張らせる。
2) 4~6段花房開花時
・本格的なかん水は、3段花房のトマトトーン処理終了後から行うが、5段花房開花始めまでは回数を少なくし、できるだけ根を深く張らせる。
・5段花房開花頃からは、果実肥大が進み樹に負担がかかり水分の要求量が高まるので、定期的にかん水を行う。
3) 7段花房開花以降
・1段花房の収穫もほぼ終わり、樹勢が安定する時期である。
・この時期は、気温が高く水分要求量が多くなるので、かん水の間隔を詰めたりかん水量を多くする。
・ただし、日照不足が続くと軟弱徒長となって空洞果や葉先枯れが発生するので、かん水量は少なくする。
4) かん水の方法
・かん水は、水分要求量が高くなる午前8時~9時頃に行う。
・通常のかん水量は1株当たり1.5㍑を基準に、天候状態を見ながら1~3日おきの間で調整して行う。
・ただし、予想最高気温が28℃以上の日は水分要求量が高いので、1株当たり2㍑行う。
5) 水分の診断
・適切な水分状態かどうかは、トマトに直射日光が当たらない早朝に、葉露の付着量や葉色で診断する。
・かん水の時間帯は、晴天日の午前中に行い、夕方表面が白く乾く程度とする。
・樹勢が強い場合は、かん水を抑え気味にしてコントロールする。
(2) 温度管理
1) 生育ステージ別の温度管理
・定植~活着までは、やや高めの温度管理を行い、最低夜温15℃以上を確保する。
・第3花房開花期までは、栄養生長し易いので、地上部茎葉の生育を抑える温度管理が必要となる。
・昼温と夜温の平均気温が15℃以下にならないようにし、地温は15℃以上を保つようにする。
・第1花房肥大期~収穫開始はじめまでは、地温をやや高めにし、かん水とあわせて茎葉の活動を促進する。
・昼温は午前中30℃、午後は25℃を目標として光合成を促進する。
・夜温は最低10℃を確保する。
・夜温が高すぎると茎葉が軟弱徒長しやすいので、注意が必要である。
・収穫開始期からは、光合成の促進を念頭に、昼温は午前中25~30℃、午後は20~25℃、夜温15~20℃を保つようにする。
・地温は25℃以上にならないようにする。
(3) 整枝
・発生する脇芽はすべて早めに摘み取って、主枝だけを伸ばす1本仕立てにする。
・ミニトマトで芯止まり性でない品種は、第2花房が出ると主枝の伸びが極端に鈍るので、第1花房直下の強いわき芽を残し、そこより下のわき芽は摘み取り、あとは放任する。(ミニ)
(4) 摘葉
・果実が着色始めとなったら、果実の均一な着色を促し、風通しを良くして病害虫の発生を防ぐ目的で、花房下の葉を2枚残してすべて摘葉する。
(5) 支柱立て
・定植後は、仮支柱を立てて誘引し、苗を寝かせない管理を行う。
(6) 敷きわら
・乾燥および地温上昇による草勢の低下、病害予防のため、6月下旬頃から敷きわらを設置すると効果が高い。
(7) 誘引
・斜め誘引整枝法では、1本の生長点を同一方向に向けて誘引し、条間を広めにとることにより、茎葉および果実への採光性を良くする。
・初期生育における誘引は第1花房の上部から始め、主枝の誘引角度は30度以内とし、できるだけ勾配を小さくして養水分の流れを良くする。
・つる下げ誘引は樹勢を弱めるので1、2、4、6段果房収穫後とし、ほ場が乾燥している午後に行い、下げた後はかん水する。
・2段果房収穫後のつる下げ時に茎と畝面を接着させ樹勢低下を防ぐ。
(8) 脇芽取り
・発根を促すため、定植後しばらく脇芽を放置する(放置する期間は作業性で決める)。
・脇芽を取り始めたら、その後はなるべく早めに取る。
・特に、開花花房直下のわき芽は、花房が開花する前に取らないと落花の原因となる。
・脇芽取りは傷口を早く乾燥させるため、できるだけ晴天の日に行う。
・汁液伝染する病害は芽かき作業により蔓延する恐れがあるので、罹病株は早期に抜き取っておくとともに、ハサミを使用せず手で折り取るようにする。
(9) 摘果
・摘果は、樹勢のコントロールと秀品率向上のために欠かすことのできない作業である。
・摘果時期は、果実がピンポン玉の大きさまでに行なう。
・良い果実となる幼果は、ガク片が7枚、豊円で果実の色が灰緑色にくすんでいる。
(10) 草勢判断
・診断する時間帯は、草姿や葉色の変化の少ない早朝から午前10時頃までとする。
・主茎の太さが均一な株は、栄養生長と生殖生長のバランスがとれている。
・基本的には生育前半の過繁茂を防ぎ、収穫が始まる頃からは、肥料切れを起こさないよう追肥をして草勢を保つ。
(11) 追肥
・第1回目の追肥は、ロング肥料を入れていない場合、3段花房が開花するころである。
・施肥量は化成肥料で10a当たり窒素成分で2~3kg程度、液肥では窒素成分量で0.5kg程度とする。
・5段花房開花以降は、肥料の要求量が高まり基肥の肥効が切れる頃なので、基肥にロング肥料を入れている場合でも追肥を行う。
・樹勢の弱い株が30%以上になったら追肥する。
・使用する肥料は、生育ステージや天候によって使い分ける。
・基準倍率より濃いと根が焼けて肥料の吸収が悪くなるので、表示してある倍率より濃くしない。
・施用例をあげると、通常の場合、eトミー046(10-4-6)を600倍で1株当たり1.5㍑、曇天や雨天が続くときはOK-F-1(15-8-17)を900倍で同量施用すると、10a当たり窒素成分で0.5kg程度の追肥となる。
・追肥するタイミングは、草勢を見ながらかん水と交互に行う。
・追肥量が多いと裂果になりやすく、着色が遅れる。
・最低気温が16℃以下になると、果実肥大がおだやかとなるため追肥効果が低くなる。
・土壌に肥料が蓄積すると水分の吸収が妨げられ生育が悪くなるが、肥料切れと間違えて追肥しさらに悪化させる場合が多い。
・葉のねじれが大きかったり、葉色が濃いのは肥料過剰のサインである。
・肥料切れの場合は、葉色が薄く葉が立つので判断の目安とする。
・その他の樹勢の目安としては、各果房直下の茎径を10~12mm程度に維持する。
(12) 樹勢のコントロール
・第1花房や第2花房が着果してからも、あまりにも草勢が強すぎる場合は、下葉かきをする。
・下葉かきを行うと生殖生長に傾き、空洞果も少なくなり、果実がひとまわり大きくなる。
・ヨーヒB5のような、ホウ素や亜鉛が含まれている資材の葉面散布により、生殖生長が強くなって草勢がおとなしくなることがある。
・葉面散布肥料は、連用すると葉の硬化や果実が汚れやすいので、一時的な生育調整や微量要素が欠乏したときに使用する。
(13) 通路マルチ
・通路の乾燥と地温上昇を防止したい場合、3段花房ホルモン処理終了後、白黒マルチを張る。
(14) ホルモン(トマトトーン)処理
1) 効果
・トマトトーンは、開花初期に光合成産物の分配を増加させることで着果を確実にし、肥大開始が早まり、果実自身の潜在的な肥大能力が早期から発揮される効果がある。
2) 処理のタイミング
・同一花房上では、基部ほど発育能力が高く、先端ほどホルモン剤に対する感受性が強いので、収穫目標数が開花したときにホルモン処理を行う。
・各花房の第一花が萎れる前にホルモン処理を行う。
・低温期の開花で花房当たりの開花期間が長い場合は2回に分けて処理するが、重複散布は避ける(乱形果の発生)。
・処理は、朝か夕方の涼しい時間帯に行う。
・処理後25℃以上の高温になると奇形果が発生しやすいので、朝処理の場合は、その後の日中の温度に注意する。
・夕方処理の場合は、日没までに乾くようにする。
3) 処理濃度
・トマトトーンの処理濃度は、20℃以下の低温時は50倍、20℃以上の高温時は100倍で行う。
・濃度が濃いと「先とんがり果」になりやすい。
・高温時には、果実内のジベレリンが減少して空洞化になりやすいので、ジベレリンを加用する。
・この場合は、時間が経つに伴いジベレリンの効果がなくなるので、当日(できれば1~2時間以内)に使いきる。
4) 処理のポイント
・低濃度のトマトトーンを多めに噴霧すると花房全体に均一に付着し、着果率が高まり果実の肥大が揃う。
・処理効果を高めるため開花前のかん水は控え、処理後かん水して草勢を強める。
・6段花房までは、生長点に飛散すると糸葉が多くなり生育に影響が出るため注意が必要である。
・食紅は材質によって、灰色かび病を誘発する可能性があるので、デンプン質のものは使用しない方が良い。
5) 保存
・トマトトーンは希釈調整後4週間くらい保存(冷蔵)できるが、なるべく早く使い切る。
(15) 白熟期とエスレル処理
・秋になって、温度が低下すると着色が進まないため、9月中旬から白熟期になった果房ごとにエスレル10を散布して着色を促進させる。
・なお、白熟期とは、赤色に着色する3~7日前に至る7~10日間(着色の2週間前~3日前頃)をいうものであり、この期間のトマト果実は、それまでの緑色から青白く緑色が抜けたような色を呈する。
(16) 遮光対策
・遮光は、予想最高気温が28℃以上の日に、日射量が多い午前11時から午後2時頃まで、遮光率30~40%の資材で行う。
(17) 摘芯
・収穫予定段数の上位2~3葉程度を残して摘芯する。
6.主な病害虫と生理障害
(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、青枯病、萎凋病、うどんこ病、疫病、黄化えそ病、かいよう病、褐色根腐病、株腐病、菌核病、茎えそ細菌病、条斑病、すすかび病、根腐萎凋病、灰色かび病、葉かび病、半身萎凋病、モザイク病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、アブラムシ類、オオタバコガ、サツマイモネコブセンチュウ、ダニ類、タバコガ、ナスハモグリバエ、ミカンキイロアザミウマなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、網入り果、異常茎、角玉、空洞果、苦土欠乏症状、先とがり果、尻腐れ症、すじぐされ果、チャック果、同心円状裂果、葉先枯れ症、葉焼け、放射状裂果、窓あき果、乱形果などである。
7.収穫
・受粉後3~4日で果実肥大が始まり、その後30日程度で肥大が終わり、しばらくすると緑色から青白く緑色が抜けたような色(白熟期)に変化し、やがて着色が始まる。
・収穫は開花後50~60日程度であるが、作型、品種によって変化する。
・収穫は気温の低い時間帯に行い、収穫した果実は薬斑等の汚れを良く拭き取り、裂果、奇形果、空洞果等の不良果を取り除く。
・コンテナ詰めの際は、多段詰めを避け、新聞紙等を各段毎に入れる。
・気温の高い日中に収穫すると、追熟の進行が早く軟化がすすむので注意が必要である。
・品種により収穫期は異なる。