ニンジンの栽培

Ⅰ.ニンジンの概要

1.ニンジンの導入

(1) 栽培面での特徴
・ニンジンは、要素欠乏などの生理障害が出にくく病害虫の被害も比較的少ないが、生育日数が長いためダイコンよりも周到な管理を必要とする期間が長くなる。
・腐食に富んだ土壌で着色が良くなるので、泥炭地でも良品生産が可能である。
・栽培面でのポイントは、発芽を均一に揃わせ、初期生育を順調に推移させることである。
(2) 経営面での特徴
・野菜の中では粗放的栽培が可能であり、は種から収穫まで機械体系が整備されており、大面積の作付けが可能である。
・畑作地帯の秋まき小麦の前作として、輪作体系に組み込むことが可能である。

2.来歴

・ニンジンの原産地は中央アジアのアフガニスタンで、ヒンドゥークシュ山麓で栽培されたのが始まりと考えられている。
・古代ギリシャでは薬用として栽培されていたようで、その頃のニンジンは根が枝分かれした刺激の強いものだったようである。
・西洋系の短根ニンジンは、10世紀頃に現在のトルコ西部辺りで誕生したと推定され、12~15世紀頃ヨーロッパに広がり、現在のようなオレンジ色のニンジンは17~18世紀頃にオランダで作り出されたものである。
・一方、東洋系の長根ニンジンは、12~13世紀頃にシルクロードを経て中国に伝わり、改良されて日本にも伝わった。
・日本には、まず室町時代頃に東洋系の長いニンジンが渡来したようであるが、記録として確認できるのは、「新刊多識編」(1631年)に「胡蘿蔔(セリニンジン)」との記載があることから、少なくともその頃には日本に伝来していたものと考えられる。
・現在主流の西洋系ニンジンが日本にもたらされたのは江戸時代後期になってからで、明治時代以降に普及した。

3.分類と形態的特性

(1) 分類
・セリ科ニンジン属の二年草である。
(2) 種子
・ニンジンのタネにはたくさんの小さな突起があり、突起同士が絡み合い1粒1粒が離れにくい形をしているので、集団でタネをまいた方が発芽揃いがよくなる形態となっている。
(3) 根
・4~5葉期は、初生皮層が破れて内皮が現れて根部が急激に肥大を開始し、形成層では最も盛んに細胞分裂が行われる時期である。
(4) 茎葉
・ニンジンの生育は初期が極めて緩慢で、葉重は本葉8枚前後から、根重は本葉12枚前後から著しく増大する。
(5) 花芽分化と抽苔
・ニンジンの花芽分化は緑植物感応型で、一定の大きさに達した植物体が4.5~15℃の低温に25~60日あうと花芽が形成され、その後10~20℃の気温と長日で抽苔する。
・ただし、低温に感応する植物体の大きさは品種により差があり、早抽性品種が14~15℃を感応限界温度とするのに対し、晩抽性品種は10℃前後の低温を必要とする。
・現在北海道で栽培されている品種は晩抽性で、花芽分化限界葉数に達するのが高温期に当たり、また生育後半が短日条件になるので、特に低温が続く年以外はほとんど問題にならないが、5月上旬以前のは種ではトンネル、ベタガケ栽培などの対策を講じる必要がある。

4.生育上の外的条件

(1) 温度
・発芽適温は15~25℃で、適温下では7~10日で発芽揃いとなる。
・10℃以下では発芽まで長時間を要し、34℃以上では発芽不良となる。
・地上部の生育適温は日中の気温が18~23℃、夜間の気温が13~18℃で10℃以下、35℃以上では生育不良となる。
・地下部の生育適温は地温が18~23℃程度で、16℃以下で根長は長め、25℃以上で短くなり、12℃以下で着色不良となり、カロチン生成を考慮した適地温は16~21℃である。
・幼苗時は寒暑に比較的強いが、直根の肥大・着色期は暑さ、寒さともに敏感となる。
・生育初期に気温、地温を高めて養水分の吸収を促して地上部を繁茂させ、根部肥大が始まる頃から温度を下げて光合成産物が地下部に分配されやすくする管理が理想的である。
(2) 水分
・生育初期に土壌水分が多いほど生育は良好で、後期には影響は少ない。
・生育初期の乾燥は、生育抑制の大きな要因となる。
・多湿では肌が粗く二次根が発生し、品質が低下する。
・乾燥状態では茎葉にアントシアンが出現し生育が抑制され、根形が細長くなる傾向がある。
・生育後半に起こる裂根は過湿によって起こるため、排水性を良くすることが重要である。
(3) 土壌
・肥大期に多量の酸素を消費するので、気相率の高い土壌が適している。

5.品種

・北海道で作られているニンジンの主な品種は次のとおりである。
(1) 向陽二号(タキイ)
・道内作付面積の5割以上を占めている。
・良質・多収性に富み、栽培期間の幅が広い夏~秋どりに適する品種で、晩抽・早太りで草勢が強い。
・根形は肩の張りがあって、形質良好で尻部までよく太る。
・根割れが少なく、揃いがよい。
・根色は美しい鮮紅色で、市場性に優れている。
・春のトンネル適期栽培では、播種後110~120日で根長18cm、根重200g前後になる。
・発芽は良いが生育初期の乾燥には注意が必要で、間引きを的確に行い、初期生育を順調に進めることが大事である。
・しみ症耐病性があり、横しま症の発生も少ない。
(2) 天翔五寸(タキイ)
・向陽二号より肥大が早く、揃いが良い。
・硬い肉質で店持ちが良く、肌の張り洗浄後のテリツヤも良好で商品性が高い。
・変色も少ない。
・発芽から初期の生育が良く、晩抽性は向陽二号と同程度で、草姿立性で機械収穫に向いている。
(3) ベータ312(サカタ)
・抽台に強く低温での肥大性に優れ、裂根の少ない品種である。
・葉長はやや短く、葉数はやや多く、草勢は中程度である。
・根色・肉色ともに濃鮮紅色できれいな肌であるが、皮は薄くてやや弱い。
・形状のそろいがよく秀品率が高い。
(4) トロフィー(シンジエンタシード)
・根長が長い晩生加工用で、裂根が少なく肥大性に優れ、収量性が高い品種である。
(5) 愛美(ヤマト)
・晩抽性で春まきトンネル栽培でも抽苔発生が極めて少ない、早生・多収の品種である。
・根形はややなで形の円筒形で、尻部までよく太り形状に優れる。
・根色、肉色ともに濃鮮紅色で、肌が滑らかで艶がある。

6.作型

・北海道における主な作型は次のおとりである。
(1) 春まきトンネル
・3月中旬~4月下旬は種、6月下旬~7月下旬収穫
(2) 春~初夏まき
・4月下旬~6月下旬は種、7月下旬~10月下旬収穫

Ⅱ.ニンジンの栽培技術

1.畑の準備

(1) 適土壌と基盤の整備
・保水力があり排水良好な砂質土壌・火山性土が適するが、腐食に富んだ土壌で着色が良くなるので、泥炭地でも良品を生産できる。
・土壌条件によって根形は大幅に変化する。
・五寸にんじんでは最低20cm程度の膨軟な作土層のあることが必要で、15cmでは根形が大きく乱れる。
・不良下層土が出てこない限り30cm~40cmの深耕をすることにより根部の伸長、肥大に有効となる。
(2) pHの矯正
・pHの適正範囲は5.8~6.3程度である。
・pH5.3以下では生育、肥大が損なわれ、pH5.0以下では生育遅れ、細胞分裂鈍化、裂根の原因となる。
・作土中の石灰や苦土が減少して土壌pHが低下すると、根色が黒ずむ場合がある。
(3) 堆肥の施用
・耕土層の深い、通気性・排水性の良好な膨軟な土壌を好むので、完熟堆肥など優良な有機物を投入し土壌の物理性改善を図る。
・施用量は完熟堆肥10a当たり2~3tとし、原則として前年の秋に施用する。
(4) 輪作
・連作は土壌病害や線虫の被害を増加させるので、3~4年の輪作体系が必要である。
・前作としては、レタスやジャガイモの場合に収量が多く、ハクサイやキャベツ、スイートコーンの場合は、残渣や茎葉を鋤込まない方がよいとされている。
・キタネグサレセンチュウ対策でマリーゴールドを栽植し作付後ほ場から持ち出す場合、ニンジンの施肥時に石灰を多めに施用する。

2.施肥

(1) 肥料の吸収特性
1) 総論
・10a当たり1tの生産量を得るために必要な養分の吸収量は窒素 4.0kg、リン酸1.0~1.5kg、カリ8.0~13.0kg、石灰3.0~5.0kg、苦土1.0~3.0kgとされている。
・特にカリ、石灰の吸収量は他の野菜の2~3倍にもなるのが特徴である。
・また、窒素に対するリン酸の吸収量の割合は約50%で高く、ダイコン、ハクサイ、タマネギなどと似ている。
・養分の吸収は生育に伴っており、生育初期の吸収量は各養分ともわずかで、その後、茎葉伸長期(は種後約40~50日)以降急激に吸収され、収穫前1カ月間の吸収量は全吸収量の70%にのぼる。
・生育、収量、品質に及ぼす影響は窒素が最も大きく、次にリン酸、石灰、カリの順となる。
2) 窒素
・肥料養分の中で生育、収量、品質に影響する程度がもっとも大きいのは窒素である。
・窒素は多すぎると葉ができすぎて根の肥大が悪く、根色が淡くなる。
・特に、肥大期以降に窒素が過剰の場合にこの傾向が強い。
・反対に少なければ、葉は小さく、根が太らない。
・肥効の発現する時期も重要で、発芽後20~40日間の4~6葉期に不足すると、その後いくら適正に管理しても根の肥大は劣り、追いつくことはない。
・初期に窒素が不足すると株全体がわい化し下葉から黄化、本葉5葉期以降に窒素が不足すると葉の老化が早く下葉は色が淡くなり、芯部の葉は立って葉身が小さくなる。
3) リン酸
・窒素に対するリン酸吸収量の割合は約50%と高く、ダイコン、タマネギ、ハクサイ等と似ている。
・ニンジンはリン酸に対する要求度が高く生育促進効果が高いので、有効態リン酸含量が30~50mg/100g程度になるようリン酸の富化に努める。
・リン酸が不足すると生育が停滞しアントシアンが生成されて葉が赤紫色になり、根色は淡く肥大も不良になる。
・リン酸の増肥効果は高いが、過剰に蓄積したほ場(100mg/100g以上)では逆に減肥したほうが良質なニンジンを生産できる。
・リン酸の吸収量は根部に特異的に多い。
4) カリ
・ニンジンは窒素吸収量に比べ、カリ吸収量が高いのが特徴である。
・発芽後2ヶ月頃から特にカリの吸収量の増加が顕著となる。
・生育後期にカリが必要なので、堆肥の効果や緩効的なケイ酸加里がよい。
・カリは光合成産物を根に移行させる働きがあり、不足すると根の肥大が損なわれる。
・一般の畑では土壌中に過剰に蓄積している場合も多く、むしろカリ過多による生理障害が心配され、作付け前に土壌分析を行い必要以上の施肥をしないように注意する。
5) その他の要素
・ニンジンは、要素欠乏などの生理障害が比較的出にくい作物である。
・石灰が不足すると根の表面がくぼみ腐敗するキャビティスポットと呼ばれる症状が現れる。
・ホウ素が欠乏すると根が黒変して腐敗する。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・種子直下の施肥は、発芽不良や分岐根の原因となるので、全面施肥または広幅作条施肥とする。
・高温乾燥期に窒素を基肥で多量施用すると、土壌の塩類濃度が少し高まっただけでも濃度障害を起こし、生育不良や立ち枯れが多く生じる。
・したがって、分肥体系をとるか化成肥料と緩効性肥料の組合せによる体系で施肥を考えなければならない。
・根の肥大するころから肥料を効かせ、生育後期まで肥効を持続させることがポイントとなる。
・分肥体系の場合、播種後40~60日の細胞分裂の盛んな時期に分施を行う。
・4~6葉期に肥効が現れる施肥とかん水が極めて重要である。
・窒素とカリを基肥60%、分肥40%の割合とする。
2) 施肥設計(例)

 区分 肥料名 施用量
(kg/10a)
窒素 リン酸 カリ 苦土 備考
基肥 ASUS082 90 9.0 16.2 10.8 2.7 ・追肥は4葉期に、遅れないように行う
追肥 S444 20 2.8 0.8 2.8
合計 110 11.8 17.0 13.6 2.7

 

3.播種準備

(1) 畝立て、マルチ
・排水性、通気性のよい圃場では平畝栽培でもよいが、土質が重く排水の悪い圃場では畝立てをし、排水を良くする。
・急に土壌水分が多くなっても裂根するので、水はけの悪い畑では高畝にする。
・ニンジンの場合は株間が狭いため、マルチをしない栽培が一般的である。
・マルチを張ると晴天の日中は5~6℃、朝でも2~3℃地温が上昇し、生育は20日程度早まる。
・マルチは特に低温時に大きい効果をもたらす。
(2) 栽植密度
・ベット幅120cm、5条植え、条間22.5cm×株間10~12cmやベット幅66cm、2条植え、条間33cm×株間8~10cm等、所有機械により様々で、10a当たり株数は30.000~40,000株程度である。

4.播種

(1) 播種時期
・一般的には地温10℃以上で播種し、10℃に満たない場合は保温資材を利用する。
・目的とする収穫時期から逆算し、100~120日前に播種する。
・ベタガケを利用した場合は、生育が7~10日間短縮する。
(2) 播種方法
・品質のよいニンジンを収穫するには発芽を均一にそろえ、初期生育を順調に推移させることが最も重要である。
・ニンジンは吸水力が弱く発芽は土壌水分の影響を強く受け、発芽不良になる最大の原因は土壌の乾燥である。
・ニンジンの発芽率は60%程度と低く、水の吸収力はダイコンの6分の1程度しかない。
・播種前に十分かん水を行うか、または降雨後の土壌水分が十分にあるときに播種する。
・特にコート種子の場合は、発芽にはより十分な水分が必要である。
・覆土は、かん水設備があれば種子が隠れる程度で十分だが、かん水設備のない圃場や土質の軽く乾燥しやすい圃場では1cm(最大2cm)程度にして鎮圧する。
・低温期のトンネル栽培では、初期の乾燥で生育が抑制されると裂根が発生しやすくなる。
・発芽適温は15~25℃で、35℃以上になると発芽率が著しく低下する。
・シーダーテープによる播種の場合は、ホルセロンテープとメッシュロンテープの2種類があるが、発芽揃い、作業性からみてメッシュロンテープの方が実用性は高いと言える。
・シーダテープの必要量は、10a当たり畦幅30cmの場合で3300m程度である。

5.管理作業

(1) かん水
・かん水装置がある場合、本葉3枚までは初期生育を順調に進めるためこまめにかん水する。
・それ以降は間隔をあけていき、肥大時期にはやや乾燥ぎみに管理することで裂根の発生を防ぐ。
・かん水が特に必要な時期は、発芽~2葉期と4~6葉期である。
(2) 温度管理
・ニンジンは、本葉5~7枚目ごろに低温にあうと抽苔する危険性が高まる。
・トンネル栽培の温度管理は、本葉7枚目ごろまでは30℃を超えないようにし、それ以降は肥大を促進し根色の着色をよくするために25℃を超えないようにする。
・外気の平均気温が12℃になった時に、風のない曇りの日をねらってトンネルを除去する。
(3) ベタ掛け
・ニンジンの場合、ベタ掛けに期待する効果は、土壌水分保持による発芽の均一化と保温効果による初期生育の促進である。
・設置方法は播種直後除草剤の土壌処理をし、土壌に密着するように概ね3m間隔に止め金で止める。
・このとき、両端の余っている部分を折り返し、その後生育に応じて止め金を浮かし、風が入るようにして高温時の焼けから守るとよい。
・被覆期間は30~50日程度で、通常は本葉4~5枚で除去する(抽苔の危険があるときは、6~7枚程度まで被覆を続ける場合もある)。
(4) 間引き
・収量を上げて揃いのよいニンジンを生産するには、2~3粒播種して適期に間引き作業することが大切である。
・間引きは、徒長しないように注意しながら本葉4~5枚までに行う。
・株間は8~10cmを基準とし、収穫時期により加減する。
(5) 中耕・培土
・間引き終了と同時に、カルチベータで軽く中耕する。
・下葉が下垂する直前の本葉8葉期ころに、特に尻づまり性の品種は、肩の緑化防止のため肩から1cm程度の土寄せを行う。
・土壌水分の高い時は生長点に土が入らないように注意する。
(6) 追肥
・肥効の落ちやすい圃場では、間引き後直ちに追肥中耕を行う。
・追肥の量は、10a当たり窒素成分で2~3kg程度とする。
・北海道では肥大着色期が高温であるため、追肥の時期が遅れたり量が多すぎると茎葉の過繁茂を招き、収量、品質を大きく低下させる。
(7) 除草
・ニンジンは、初期生育が緩慢なのですぐに雑草に負けてしまう。
・初期からこまめに除草することが大切である。

6.主な病害虫と生理障害

(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、萎黄病、うどんこ病、乾腐病、黒しみ病、黒すす病、黒葉枯病、しみ腐病、軟腐病、根腐病、斑点病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、アブラムシ類、キアゲハ、キタネグサレセンチュウ、キタネコブセンチュウ、ヨトウガなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、岐根、しみ症、割れなどである。

7.収穫

(1) 収穫適期
・尻がつまり、品種固有の形状になったときで、市場性の高いM、L規格が多い時期が収穫適期である。
・収穫適期を過ぎると、裂根や2Lが多くなる。
・ベーター312は、在圃性が高く、裂根の少ない品種だが、収穫期が高温多湿になりやすい作型では収穫が遅れると腐れや土壌病害の発生する危険性が増すので、適期収穫を心がける。
(2) 収穫方法
・衝撃による裂根を防ぐため、収穫作業は丁寧に行う。
・収穫後は、変色するので、直射日光に当てないようにする。