ダイコンの栽培

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Ⅰ.ダイコンの概要

1.ダイコンの導入

(1) 栽培面での特徴
・栽培期間が55~75日と短く、生育肥大には20℃前後のやや冷涼な気候が適する。
・栽培面でのポイントは、生育途中までは窒素の肥効を抑え、主根(直根)優先の生育をさせ、短くしまった茎をたくさん出させことである。
(2) 経営面での特徴
・畑作的野菜だが、収穫物の重量が重いことと収穫後の鮮度が要求されるので、一時的に大面積を作付けすると労働力が不足する。

2.来歴

・原産地については諸説あるが、地中海沿岸や中央アジアではないかといわれている。
・その歴史は古く、ヘロドトスの歴史書に紀元前2700~2200年ごろのピラミッド建設の際、労働者に食物としてダイコンが支給されたとの記述があり、古代エジプトやギリシャ・ローマでは主要な野菜として栽培されていたといわれている。
・その後、ゲルマンのカール大帝(768~815年)は「農園の帝国法」を定め、ダイコンを薬用植物として珍重し農民にその栽培を義務づけたとされるが、ヨーロッパへの広範な普及は遅くイギリスでは15世紀、フランスでは16世紀ごろから栽培されるようになったがあまり発達しなかった。
・一方で、東へのダイコンの伝播はシルクロードを経由して中国へ向かい、紀元前500年頃には中国でも栽培が行われていたようである。
・ダイコンは中国全土に広く普及し、華北系、華南系や南方系などに分化して発達し、多くの品種が生まれた。
・また、中国では、ダイコンに含まれる燃えやすいイオウを抽出して油煙をつくるなど、墨の原料としても使われていたようである。
・日本へは、中国から華南ダイコンが、朝鮮半島から華北ダイコンが伝わった。
・日本最古の書物「古事記」(712年)に於朋花(おほね)の文字を含む歌があり、また、5世紀に築造された大仙陵古墳(仁徳御陵)からはダイコンの種子が発見されていることから、古墳時代には伝わっていたと考えられる。
・古名の「おほね」に「大根」の字を当てるようになったのが平安時代で、のちに音読みされて「ダイコン」と呼ばれるようになった。
・大根の名が初めて現れたのは「倭名類聚抄」(923~930年)である。
・ダイコンの栽培が盛んになったのは江戸時代で、ダイコンは重く遠くから運ぶのは大変だったため、江戸の近くで栽培されるようになり「江戸ダイコン」と呼ばれるさまざまな品種が生み出され、栽培法も確立していった。
・これらが、参勤交代やお伊勢参りなど人々の行き来とともに日本中に普及していった。
・現在、多く出回っている「青首大根」が主流になったのは1970年代からで、現在は100種類以上の品種が栽培されている。

3.分類と形態的特性

(1) 分類
・アブラナ科ダイコン属の二年草である。
(2) 根
・ダイコンの根は、土壌環境が良いと肥大期には2mにも達する。
・生育末期には主根は180~200cm、側根は60~100cmにも達し、吸肥力はかなり強い。
・発芽後30日を過ぎる頃から根の肥大が始まり、40日を過ぎると急激な肥大を開始し、収穫期前10日間くらいが最もめざましくなる。
・ス入りは根の過熟、老化が大きな要因で、根の機能を低下させない地力と肥培管理が重要である。
(3) 葉
・発芽後3週間くらいから地上部の発育が目立つようになり、30日を過ぎると葉が立ってきて生育最盛期となる。
・過繁茂の場合、外側から15~20枚の葉が大きく、両側の向かって小さくなる。
(4) 花芽分化と抽苔
・花芽の分化は種子感応型で、種子が吸水しはじめた時点から低温に感応する。
・は種後7~10日間が最も低温感応しやすく、12~13℃以下の低温にあいその後の長日・高温(15℃以上)条件で抽苔する。
・なお、低温継続時間が短かったり、昼温20℃以上の高温にあう(4~6時間以上、毎日の反復)と低温感応が打ち消される。

4.生育上の外的条件

(1) 温度
・発芽適温は15~30℃で、10℃以下や40℃以上で発芽が阻害される。
・生育適温は15~20℃で、冷涼を好む。
・茎葉の耐寒性は強いが、直根の伸長・肥大は地温の影響を強く受ける。
・地温は20℃以上の高温の方がよく伸びるが、後半の肥大は15℃以下の低温の方が良好である。
・直根の肥大終了後は、特に暑さに弱くなる。
・平均気温が25℃を超えると生理障害や病害が多発する。
・ダイコンは生育が進むほど高温に弱くなる。
・また、平均気温が10℃以下では生育が緩慢となり、マイナス5℃以下で根部に凍害を生ずる。
・根の生育適温は幼根時は28℃と高いが、生育初期は21~23℃、中期以降は16~20℃で良く育つ。
・平均気温23℃で生育が抑制され始め、25℃で生育障害や軟腐病の発生が多くなる。
(2) 土壌
・土壌に対する適応性は広いが、石礫がなく、保水性、排水性の良いことが望まれる。
・耕土が深く、保水性、排水性に優れ、腐植に富んだ土壌で良質のダイコンが生産される。

5.品種

・北海道で作られているダイコンの主な品種は次のとおりである。
(1) 夏つかさ(トーホク)
・夏~初秋まきで播種後55日頃から収穫でき、根長35cm、根径7.7cm、根重1.3kg位で尻の肉付きの良い大根。
・地上部は緑葉で立性、葉数が少ないため過繁茂にならず作り易い品種。
・耐暑性があり萎黄病、ウイルス病、生理障害に強い。
(2) 夏つかさ旬(トーホク)
・晩抽性があり、夏つかさよりも3週間程度早く播種が可能。
・夏つかさと同等の耐暑性があり、晩春~晩夏までの幅広い播種が可能。
・肌が大変良く、市場性も非常に高い。
(3) 貴宮(渡辺採種)
・根長35~36cm、根径7cm程度で円筒形に良く揃う。
・地上部はやや小型で葉色は濃い緑色、首色はやや淡い鮮緑色で皮色・肉色とも純白、肉質は緻密でやわらかい。
・萎黄病、軟腐病、横縞症に強い。

6.作型

・北海道における主な作型は次のとおりである。
(1) 春まきハウス
・2月下旬~3月中旬は種、5月上旬~5月中旬収穫
(2) 春まきトンネル
・3月下旬~4月中旬は種、5月下旬~6月中旬収穫
(3) 露地
・4月下旬~8月中旬は種、6月下旬~10月下旬収穫

Ⅱ.ダイコンの栽培技術

1.畑の準備

(1) 適土壌と基盤の整備
・耕起深は30cm以上を目標とし、砕土・整地を十分に行い、岐根、曲がり、寸づまりにならないようにする。
(2) pHの矯正と土壌改良
・ダイコンは酸性土壌にはやや強くpH5.3以上であれば問題ないが、pH6.0を目標に矯正する。
・有効態リン酸15~30mg/乾土100gを目標に土壌改良を行う。
(3) 堆肥の施用
・堆きゅう肥などの有機物の施用により土壌の膨軟化を図り、根が素直に伸びるようにする。
・完熟以外の堆肥は岐根の原因や害虫の発生源となるので、前年または前作施用とする。
(4) 輪作
・アブラナ科の連作を避けるため、共通病害虫のないマメ類やイネ科の野生種エン麦や未成熟トウモロコシとの輪作を行う。
(5) 畝立て、マルチ
・幅75~95cm、高さ10~15cmのベッドを形成する。
・ポリマルチは土壌水分や地温のコントロール、病害虫の軽減、雑草防除などができ品質向上に有効な手段である。
・ポリマルチの種類は透明(地温上昇)、 緑(地温上昇・雑草防除)、黒(地温上昇・雑草防除)、白黒ダブル(地温抑制・雑草防除)、銀黒ダブル(地温抑制・雑草防除、害虫防除)がある。
・マルチ幅は95cm幅で、株間24~30cmとし、2条チドリの有孔マルチを使い、播種期によって使い分ける。
・植え穴の大きさは低温期栽培では直径3cm、高温時は8cm程度とする。
・マルチと土壌表面との間に隙間があると、高温障害(熱風障害)を受けやすいので土をのせておさえる。

2.施肥

(1) 肥料の吸収特性
1) 窒素
・生育途中まではチッソの肥効を抑え、葉が45度位に立っている状態が良い。
2) リン酸
・赤芯症に対しては、リン酸資材の中でも過リン酸石灰の効果が特に高い。
3) その他の要素
・ダイコンはホウ素欠乏による赤芯症や肌あれ、亀裂が出やすいので、FTEを4kg/10a施用する(ホウ素として0.2~0.3kg以内を施用する)。
・ダイコンは苦土やホウ素の欠乏による生育障害を受けやすい。
(2) 施肥設計
1) 考え方
・施肥位置に根群が集まる性質があるので、元肥は畝全体に混合しておくと側根は水平に広く分布し、主根の生長も良好になる。
・ダイコンは吸肥力が強く、比較的少ない肥料分でもよく育つ性質を持っている。
・しかし、生育初期や肥料の吸収が盛んな根の肥大期に肥料が不足すると、根の肥りが劣って品質を損ねる一方、生育後期に肥効が残ると過繁茂となり、軟腐病や曲がり、空洞症などの発生を助長させる。
2) 施肥設計(例)

 区分 肥料名 施用量
(kg/10a)
窒素 リン酸 カリ 苦土 備考
基肥 NS228号 40 4.8 4.8 3.2 0.4
過リン酸石灰 40 6.8
合計 80 4.8 11.6 3.2 0.4

 

3.播種

(1) 時期
・ダイコンは発芽力が強いので、不良環境下でも比較的安定して出芽する。
(2) は種方法
・発芽適温は15~30℃と幅広い。
・1穴当たり2~3粒は種し、間引きを行う。
・ダイコンは多粒まきした方が発芽率が向上し、根を土中に深く伸ばすことができるので、その後の生育もよくなる。
・は種深度は1.5cm~2.0cmを目安とし、は種後に軽く鎮圧する。
(3) 栽植密度
・ダイコンの場合、栽植密度を狭くすると生育が遅れ、広くすると促進される。
・栽植密度を広くすると収穫期の肥大速度が速いので、収穫適期幅が狭くなる。
・首色が薄い品種(T-340など)は、光が良く当たるように株間をやや広くする。
・ベッド幅75cm、通路幅55cmの2条まきで、株間は24~27cm程度が標準である。

4.管理作業

(1) 温度管理
・日中の温度は20℃前後が最も生育に適しており、生理障害や病害虫が少なく品質も良くなる。
・生育中期以降高温になりすぎると根部の生育不良などが起こりやすいので、温度状況をみながら遅れないようにトンネルを除く。
(2) 除草
・植え穴付近の除草は間引き時に手取りで行い、通路部分は生育中期にホー除草を1回行うことで収穫までの雑草繁茂を防げる。
・除草処理は、は種後約30日ころまでに終わらせ細根を傷めないようする。
(3) 被覆
・ビニールトンネルで被覆する場合は、発芽から本葉5~6枚までは昼温が35℃を超えないように換気し、本葉7~10枚までは昼温30℃、20枚までは25℃、それ以降は20℃を目安に換気する。
・特に、10枚目以降は換気が遅れるとすぐ徒長して葉がちになり、根部の肥大が悪くなる。
・ベタガケ資材で被覆する場合は、被覆期間が長いと茎葉が繁茂し根部肥大が抑制されるため、は種直後から15~20日間程度の抽苔危険期のみとする。
(4) 間引き
・本葉3~4葉期頃までに間引きを1~2回行い、生育不良株、子葉の奇形、病害虫による被害株を取り除き1本立ちにする。
・間引き後、株元に土寄せする。
・間引きは通常、本葉2~3枚時と6~7枚時に行う。
・点播では1箇所3粒の薄まきとし、間引きは6~7枚時の1回で行う。
(5) 草勢
・生育のごく初期に、子葉が小さく葉色が極端に濃い場合は、基肥の窒素が多すぎると考えられる。
・正常な生育をしている場合、外側から10枚前後の葉が最も大きく、内側に向かってだんだん小さくなる。
・過繁茂の場合、外側から15~20枚の葉が大きく、両側の向かって小さくなる。

5.主な病害虫と生理障害

(1) 病害
・北海道において注意を要する主な病害は、黒腐病、黒しみ病、黒斑細菌病、軟腐病、根腐病、バーティシリウム黒点病、べと病、モザイク病などである。
(2) 害虫
・北海道において注意を要する主な害虫は、アブラムシ類、キスジトビハムシ、キタネグサレセンチュウ、コナガ、ダイコンバエ、ネキリムシ類、モンシロチョウ、ヨトウガなどである。
(3) 生理障害
・主な生理障害は、アミ入り、褐色芯腐れ症、岐根、亀裂褐変症、空洞症、ス入り、赤芯症、根の内部変色、曲がり、横縞症、裂根などである。

6.収穫

(1) 収穫適期
・は種後の生育日数(は種後60日前後)を目安に、Lサイズが主体となった頃が適期となる。
・収穫前後に、必ず肉質調査を行い、肥大、品質状況を確認しながら適期収穫につとめる。
・特に、夏どりではス入りの進み方に注意する。
(2) 収穫方法
・収穫期に入ると急激に肥大(1日当たり60g程度増加)し、空洞症や根部表面の劣化などの品質低下となるので速やかに収穫する。
・高温期の収穫は、品温の上昇や消耗を防ぐために早朝に抜き取り、直射日光を避け、乾かないうちに早めに洗浄する。
・ダイコンの肌は、打撲やこすり摩擦を与えると品質が低下するので注意する。
・洗浄後、時間がたつと鮮度が落ちるので冷蔵貯蔵する。